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第34話

 玄関のチャイムが鳴り響く。 「ああ、桐生」 「外に出ていないから迎えにきたぞ」 「ごめん。ちょっと待ってて」  声は大分ましになった。このまま順調に回復すれば元通りの声になるだろうと診断されている。  慌ててジャケットを羽織って最近使い出した小ぶりの鞄を掴んだ。持ち帰る書類が減ったのと、軽さを重視して財布とスマホだけを入れられる鞄に変えたのだ。 「先に降りるぞ」 「はい」  玄関で待っていた桐生に返事をして、忘れ物がないかを確認してから部屋を出た。  鍵を受け取って運転席に着く。桐生は後部座席に座った。 「午後からは第二と出張に行ってくるから明日からは迎えは必要ない」  桐生から聞いて、「分かりました」と返事をした。  オフィスに復帰してからは秘書の仕事は第二に任せていて桐生のスケジュールは管理していない。  今日に限って渋滞に巻き込まれてしまった。 「和人兄は無事に着いたのか?」  桐生に聞かれても何も知らない。  何時に出て行ったのかも分からない。 「連絡がないので分かりません」  答えると、「お前はいくのか?」と聞かれた。  僕が行くといえば桐生は止めないと言った。今なら怪我の時に引き継ぎをしているから仕事にも支障は出ない。  抱えている仕事もない。  お膳立てされている状況に気がついて、「桐生、運命の番は本当に引かれ合うんですね」と呟いた。 「何かあったか?」  車は渋滞で動かない。 「今行ったらきっともう帰って来られないと思います」  和人のところに行ったらもう戻って来られないだろう。  引かれ合い、惹かれ合う運命。離れても引きつけ合う。  出会ってしまえばそれは強いものになって、他の番がいても引きつけ合う。 「そうだろうな」  渋滞の原因はこの先に駅があるからだ。うっすらと曇っていて、午後から雨の予報になっていた。徒歩や自転車で通学通勤をしている人が雨の予報で利用者が増えたことが原因だ。

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