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第35話

「僕の部屋の冷蔵庫。入りきれないくらい物が詰まっていて、キッチンには今朝、和人が作って行った朝食も置いてあるんです」  ゆっくりと進み出した車。前の車との間隔を開けて、ウインカーを上げて右に寄る。  路肩に車を停めると、「鍵は持ってますよね」と確認すると、「ユキに頼んでおく」と返事をして車から降りた。僕も運転席から降りると、車の鍵を桐生に渡した。 「この時間なら飛行機で行けば夕方にはつけるだろ。和人兄の住所はメールで送る」  運転席に回ってきた桐生に、「じゃあね」と抱きついて、駅に向かって走り出した。  電車を乗り換えて飛行場まで向かった。  電車の中から飛行機の切符を手配して入場手続きをした。  車だと4、5時間かかるから、昼過ぎには和人は到着しているはずだ。  飛行機だと2時間弱。桐生から送られてきたメールの住所を頼りに和人の家に向かう。  住所からアパート暮らしだとわかった。  自分の住んでいる住宅街とは違って、街の中の繁華街の一角。人通りも多いし、雨のせいで傘を差していて歩道は歩きにくかった。  電話をかけようかとも思ったが、仕事中かもしれない。  スマホを鞄から取り出そうとしている時だった。 『ドンッ』 「あッ……」 『ガシャンッ』  車が目の前を通り過ぎた。  人通りが多くて背中から人が当たった。手に持っていた小さな鞄が雨のせいで滑って車道に飛んでしまった。  車は見事に鞄を轢いた。  慌てて拾いに出るが、車の通りも多くて何台にも引かれてしまった。  信号で止まった車の隙間から鞄を拾う。 「どうしよう」  鞄を開くと粉々になった元スマホのかけらが出てきた。  住所はこの辺りだとわかっている。だけど、電話番号もメールアドレスもスマホに記録されていて覚えていない。  スマホのかけらと一緒に白い粉がパラパラと出てきて、なんだろうと中を見ると、抑制剤の錠剤が粉々になっていた。  歩道の端によって駅で買ったビニール傘を手に持って人の流れを眺める。  出てくるのはため息しかない。

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