38 / 55

第38話

 腕を振り解いて男たちをかき分ける。傘を振り回して落とした。雨で地面が滑るし、鞄も落とすけど拾えなくて、男たちにすぐに捕まってしまう。熱った身体はいうことを聞かなくて数人に捕まれば逃げることもできない。 「離せっ。離してっ」  大声を上げても誰も助けに来ない。  このまま知らない男たちに捕まって犯されて、底辺のΩに落とされるかもしれない。  そんなことになったら、もう桐生のところにも帰れない。  和人のところに帰れない。 「いやだっ、離せっ」  暴れて腕を振り回して争うが、雨で濡れた地面で滑って転んでしまう。  両脇から抱えるようにして男に引きづられる。 「離せっ」  誰にも触られたくないのに。この身体はαを求めてしまう。甘い香りが広がって、βさえも魅了する。  ヒートだ。  暴れて争って地面を這った。男たちは目の色を変えて襲ってくる。  そこが街の中だなんて関係ない。  通りを行く人が大声で叫んでいるが、よく聞き取れない。 『パッパァアアアーーーー』  車のクラクションが聞こえた。 『キィキィィィィッ』  派手なブレーキの音が聞こえた。  車のドアが開く音がして、「ひなたっ」呼ぶ声に身体から一気に甘い香りが溢れて、意識が薄れそうになる。  声がする方に振り返る。 「ひなたっ」  腕を伸ばして、掴んだ。  引き起こされて、抱き込まれた。  男たちは僕を取り戻そうと手を伸ばしてくるが、和人はそれを払い除ける。和人の車から数人の男たちが降りてきて、男たちを薙ぎ倒した。通行人が集まってきて、遠くからサイレンの音も聞こえた。 「ひなた。なんでこんなところにいるんだ」  怒った声が耳元で聞こえるけど、抱きついたまま熱い息がこぼれる。顔を上げてその唇がほしくて、口づけが欲しくて両手を首に巻きつける。 「んっ……」  噛み付くように口づけをする。和人から甘い香りがする。それが余計に体を煽る。 「Let's move」

ともだちにシェアしよう!