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第40話
戻ってきた和人に強く抱きついた。
「ごめんよ。ひなた」
耳の下に鋭い痛みが走ったのと同時に意識が途切れた。
ふわふわとした感覚とモヤがかかった視界。
うっすらと意識が覚醒していくのを感じる。
だけど、まだ眠っていたくて瞼を開けたくない。
「……た、ひなた」
声がして、「ん?」と返事をした。
「ひなた。そろそろ起きて」
仕事に遅れるのかな。
肌触りが違う。
ベッドはこんなに柔らかくなかったはずだ。
和人がシーツを買い替えたのかな。
ああ、でもこのシーツは和人の甘い香りがする。
「ひなた。ひなた起きて」
揺すられてゆっくりと目を開けた。開けてそこがどこか分からなかった。
自分の部屋じゃない。
「あ……」
「怠くはない?」
「ご、ごめんなさい。僕……」
自分の失態に恥ずかしくてかぶっていた布団を掻き抱いた。
ここは和人のアパートで、和人の部屋だ。
「具合は悪くない?」
和人が布団とめくろうとするのをぎゅっと抱き止める。
「悪くない」
まだ頭がぼーっとはするけど、我慢できないほどじゃない。
「じゃあ、起きて」
「と、ちょっと、わっ、だ。なんでっ」
和人が布団を勢いよく捲った。自分の格好に驚いて起き上がった。
大きめのTシャツとパンツしか履いてない。
「雨で濡れてたのと、地面の泥で汚れてたから脱がせた。パンツは脱がせてないよ」
「……すいません」
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