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第53話
おもちゃに吊られることなんてもう起きはしないだろうし、携帯を落とすこともないだろう。
今まで一度だってそんなことはなかったのだから。
「ドジとかじゃなくて、Ωだから」
和人が、「庇護したいってことじゃない。番になれないから、その分縛り付けていたいんだ。誰にも触れさせたくないし、誰にもその甘い香りを感じさせたくない。俺だけの運命でいてほしい」と続けた。
Ωとαだけど番にはなれないから。
和人が不安になるのも仕方がない。
絆を作ることはできないんだから。
「ちょっと待ってて」
立ち上がると寝室に置きっぱなしになっているカバンを取りに行った。カバンの中を探して持ってくる。
「これ……修理できますか?」
机の上に置いたのは黒い紐。桐生がペンチで切ったΩの首輪だ。捨てることもできなくてカバンの中に入れていた。切ってしまったから修理は無理かもしれない。
和人に無理矢理つけられはしたけど、繋がりは感じることができた。
毎日電話をして、メールをしてくれたけど、この首輪ほど安心感を与えてくれるものはなかった。
「もう一度、首輪を、ください」
机の横に立っている僕の手を和人が握って、椅子に座ったまま見上げる。
「ひなたを愛してる。臆病なところも、一途なところも、優柔不断なところも全部。俺のものになってくれてありがとう」
握られた手を握り返す。
「僕の方こそ、お待たせしてすいません」
「謝らないで。俺の方こそ遅くなったんだから」
引き寄せて僕のうなじを反対の手で撫でた。
運命の番なのに、番えないもどかしさに苛まれる。
「番にはなれないけど、ひなた。俺の家族になってよ」
家族?
首を傾げると、「俺と結婚してほしい」と抱き寄せられて耳元で囁かれた。
そっか。番になれなくても絆は作れる。
αとΩなら性別は関係なく婚姻ができる。
前にも言われたけど、『家族』と言われて、そういう形もあるのかと納得した。
「そっか……。はい」
なんだか急に、ストンと納得した。
「そっかって……」
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