54 / 55

第54話

「番になれなくても結婚って選択があったことに気付きました」 「そういうこと」  くすくす笑って和人が、「ひなたらしいよね」と頭を撫でた。 「だから、首輪よりもふさわしい物を用意します。少し待って頂けると幸いです」 「お待ちしてます」  新しい首輪とお揃いになったデザインの結婚指輪。  婚姻届は日本に帰国して新居を構えると同時に提出した。  番にはなれないけど、家族として互いを支え合うことを誓った。  発情期は3ヶ月に一度やってくる。和人は「全部俺がもらうから」なんてわがままを言って、オープンさせたばかりの店を1週間の長期休業にした。スタッフは驚きはしたけど、「和人のすることだから」と許してくれた。  和人の会社のスタッフは和人と共に仕事をしてきたメンバーで一緒に起業したスタッフもいた。αもΩも番のスタッフもいて賑やかなメンバーだ。会社というよりもサークルのような賑やかで楽しくて、すぐに打ち解けることができた。 「ひなたの発情期が重いってのはさ、運命の番の俺が側にいるのと、それに近いアキが側にいたから常にΩフェロモンが溢れてたってことじゃないの?」  毎日抑制剤を飲んでいる僕に和人が聞いた。 「さぁ……」  僕の横には常に桐生がいたし、今は和人がいる。 「甘い香は好きだけど」  和人が僕の項に口づけをする。 「だんだん抑制剤の効きが悪くなってる気がします」 「それだけイチャイチャしてたら抑制剤なんて効かないでしょうよ。仕事してください」  カウンターの奥のキッチンから調理スタッフの声がして慌てて和人から離れる。 「ほら、開店準備急いでくださいよ」  ホールスタッフもいいながら店の入口へと向かっていく。 「もう、見慣れましたけど。ひなたマネは裏に行った方がいいんじゃないですか?」  和人が、「ええ〜、俺だけじゃホール回らないよ?」と口を尖らせた。 「和人さんは外回りに行ってきていいですよ。日本橋の方のスタッフ足りないみたいですから」 「ええ〜。俺ここで仕事したい」 「和人さんよりひなたマネの方が仕事できるんで」  スタッフは和人に容赦がない。

ともだちにシェアしよう!