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第2話
「ななな何やってんだよ」
俺は、シャツの前を押さえた。
翔は、悪びれもせずに、ニヤニヤ笑っている。濡れた唇をぬぐう。
その濡れたのは、俺の唾液のせいだと知らされているようで、頬が熱くなる。
「光、女みてー。何で俺に胸触られて、赤くなってんの? キスで、そこまで感じるなよ」
翔は、やるだけのことをやっておいて、平然と笑っている。
何つー奴だ。性根が曲がっている。性格が歪んでる。頭がおかしい。いいのは、顔だけだ。いや、体格も頭もいい。でも、性格悪けりゃ、意味ないだろ。
何で、こいつ、俺を、片手で支えられるんだ?
背中に感じた硬い腕の感触を思い出して、ぞわぞわしてしまう。
子どものころとは違う、力強い腕。
肩幅も広く、胸板も分厚い。腕も足も硬く引き締まっている。
翔、もう大人の男に成長してるんだ。ガキじゃない、ガキの頃のあどけないあいつじゃないんだ。
俺、大人になった従弟にキスされた。抵抗もできずに。
全然抵抗できなかった。それどころか……。
「キスが、うまいと、いいでしょ?」
翔は、意味ありげに言った。今、そういうキスをしてやったんだ、という顔つきで。
「はぁッ?」
俺は、飛びあがって変な声を出す。
「彼女と、キス以上に進みたいんでしょ? お前だって、されそうになったでしょ。男のくせに、さ」
「は、は。なるほど」
翔にキスされて、さらに、何かやらかされそうになってた俺は、素直に納得した。
こんなキス、好きな人にされたら、もう、どんなことでも許してしまうだろう。
つうか、お前のキスは、どれだけ、威力があるんだ。どこでそんなもの手に入れた。
まさか、その顔使って、女の子を、とっかえひっかえ。あるいは、年上の彼女と、あんなことやこんなこと。
疑いの眼を向ける俺に、翔は、平然と言ってくる。
「じゃあ、今度は、光から。さっきのを手本にしてみ?」
「お、俺が、翔に、キスするの?」
ほんと、頭やられてるな、お前。俺にキスされてもいいのか。頭、爆発して、焼け野原広がってるな。
「キスの練習したくないの?」
ああ、練習? そういうこと? お前、俺に体差し出して、キスの練習させてやるって?
意外といい奴だな。
なんて、思うか、俺が。
さすがに、年下の従弟に教わるのは、どうかと思う。キスだぜ? 隠しアイテムの在り処でもあるまいし。
だが、下半身からの要請が、むくむくとこみ上げてくるのを抑えられなかった。ごめん、俺も、エロ妄想、爆発してます。
このキスさえあれば、彼女をメロメロにさせられる。こんな俺でさえ、女の子と合体できそうな気がする。しかも、学校の清純派アイドルとの合体。
俺は、頷いていた。
「じゃあ、やるぞ」
俺は、何度目かにそう言った。
目の前の翔は、面倒くさそうに頷く。
「どうぞ?」
「じゃ、やるから」
そう言って、翔の唇に、自分の唇を重ねてみたものの、重ね合わすだけで、それ以上自分から進めることができずに、唇をくっつけただけで、またもや、離してしまった。
「あー、俺、だるいから横になっていい?」
「あ、うん」
翔はベッドに横になってしまった。その翔に屈みこむ俺。どうしてこうなった!? と頭の片隅で思いながらも、「どうぞ?」と翔に促されると何故かやめることができない。
「じゃ、やるから」
「どうぞ?」
同じ台詞を何度も繰り返す。そのうち翔が「チッ」と舌打ちしやがった。あー、ごめんね、何か。イライラするよね。せっかく付き合ってくれてるのにね。
「光、ウブすぎ。一生童貞を貫く覚悟決めた修道士かよ」
翔は、呆れ果てたような声を出すと、面倒くさそうに、俺の腕を引いた。
「これ以上、とろとろやってるのは面倒くせえな。俺から奪うわ」
あれ、向きが変わった、と思っていると、翔は俺を見下ろしている。
は?
「何を奪うの?」
「初めてを」
は?
俺の初めてを奪うだとぅ?
具体的に言ってみろや。俺には、初めてのことがいっぱいあるんだぞ? 人生まだまだ未経験多いんだぞ。
どの初めてか、いってみろ。
つうか、俺のこと組み敷いて、何やってるわけ?
翔を押し返そうとしたが、その胸はびくとも動かない。
翔は、屈みこんでくる。
ちょっと、待って、そういう初めては、俺には、覚悟が要るから。
顔が降りてきて、唇を覆われる。
さっきまで、じっと俺からのキスを待ち続けた同じ唇が、今度は、解き放たれたかのように、俺の唇を奪ってくる。
ちょ、やめろよ。
濡れた舌が入ってくる。
うわ、またあのキスだ。
何度も舌を絡めとられるうちに、吸われているのは唇じゃなくて脳みそのような気がしてくる。コイツに脳みそ吸い取られてんだ、俺。だから意識が混濁してくるんだ。
留めなおしたボタンが、また、外されていく。
まままま待てぃ。
「ん……ふ、ちょっと、待った」
顔をそらすと、唇の離れる粘着質な音が上がった。うわ、何か卑猥。今度は、そのまま、耳たぶにキスされる。
「……ん」
背中に走る痺れ。
何だ、これ!? 俺の体おかしい。おかしいぞ。
「や、ちょ、ま、マジで、ダメだって」
唇の愛撫は、頬や首筋に移る。
自分の体なのに、知らない感覚に溺れそうになる。
だめだ、このままでは、こいつにいいようにされてしまう。
すっかりシャツのボタンを外されて、ベルトを外す金属の触れ合う音がする。
「な、なんで……? 何で、翔、俺に、こんなことすんの?」
「光が、よがってるから」
「はああああ?」
「だって、ここも」
わわわ。触んな。手、どけろって。
つうか、反応するな、俺。
変な息が漏れてしまう。
下着の上から、翔は、俺に触れている。
だめだ、何か、爆発してしまいそう。エロ妄想じゃない、小さいけど本物の爆発。いや、発射。
でも、だめだ、それだけはできない。
ふ……あ。
情けない、俺。
「声出すな、母さんに聞こえる」
翔は、唇を重ね合わせてきた。漏れそうな声を閉じ込めてくる。
お前ーっ。母親にバレちゃいけないことをやらかしてるのはお前だーっ。
くそぅッ。
興奮が頂点を迎え、俺の発射台から無事、ミルク的なものが発射された。
翔に、こんなことにされるなんて。
俺は、放心して、天井を見つめていた。
下着の中が、濡れて気持ち悪い。その感触が余計に情けない。
翔の手が頭を撫でてくる。優しくくすぐるように撫でてくる。
目から、しょっぱい液体が出てくらぁ、こん畜生。
俺は、両腕で顔を覆った。
その腕を、翔に取り払われる。翔は俺の顔を覗き込んできた。
うわ、もー、あっちいけ。しっ、しっ。
「大丈夫だ。気にすんな」
そう言って、俺の頭を抱いて、もう一度、唇を重ねようとしてきた。
ぎゃ、やめて。ナチュラルにキスしようとするのやめて。
俺は、翔を押しのけた。
「こんなの、悪ふざけにもほどがある」
起き上がる俺の腕を、翔は、掴んできた。
離そうとすると、強く握りこんできた。
「悪ふざけじゃない。わかんない?」
翔は、いつものニヤついた顔ではなかった。
暗い顔で俺を睨みつけていた。
ちょっと、何? 今度は威嚇ぅ?
翔は、じっと、俺を睨みつけたままだった。
「悪ふざけでやったわけじゃない」
翔は、じっと俺を睨みつけていた。
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