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キスの意味✦side秋人✦3

 車に乗せられて、いくら話しかけても蓮は何も答えてくれなかった。わけが分からなまま蓮のマンションまで連れてこられた。  駐車場に車を停めると、蓮はまた俺の手を引いてエレベーターに向かう。 「おい蓮、手離せって。逃げねぇからっ」  険しい顔で無言で先を歩く蓮に、気持ちがひるむ。  運転中、蓮はずっと怒ったように怖い顔をしていて、このあと何が待ってるのか、何を言われるのか、怖くて逃げ出したかった。  好きだという気持ちが、どんどん俺を臆病にさせる。嫌われるのが怖くて、蓮に強く出れない自分が情けなくて本当に嫌だ。  俺の話を聞いて蓮が怒っている。でもだったらもう話は終わりでいい。もう何も話したくない。  マンションにまで連れてきたということは、楽屋では出来ない話の続きをするつもりなんだろう。  もしかして、マネージャーもあとから合流するのだろうか。そうなったら、ここでは人の目を気にする必要もないから、二人が恋人の空気感になるかもしれない。  嫌だ。見たくない。帰りたい。  もう駄目だ。もう泣きそうだ。  あれ以上、俺は何を話せばいいんだ。  蓮に手を引かれたまま玄関に入り、背中でドアがガチャンと閉まる。  ふり返った蓮は、俺にもたれるように手を伸ばしてドアの鍵を締めた。  撮影以外の、久しぶりの蓮の熱。  一気に感情が高ぶって、もう涙が流れそうだ。  後ろに下って離れようとしたら、蓮が俺をぎゅっと抱きしめた。  どうして抱きしめられてるのか、頭の中が混乱して気持ちがぐちゃぐちゃで、もうわけが分からない。 「……もう無理」  耳元で、そんな蓮の絞り出すような声が聞こえたと思ったら、突然唇にあたたかいものがふれた。  なにが起こったのか、分からなかった。  無防備に緩んでいた口に、ぬるりと何かが入りこんできて、そこでやっとキスをされていると理解した。 「んっ、……やめ……」  混乱する頭で、蓮の胸を必死で押して抵抗した。  噛みつくような荒々しいキス。だけど蓮の舌は優しくて、まるで口内をくすぐるように撫でるように動いた。  身体がビクビクと震えて、もう何も考えられない。 「……ん、んんっ、ぁ」    息もできないくらいの激しいキス。  それなのに、唇も舌もうなじを撫でる手もすごく優しくてあったかくて、抵抗する手に力が入らない。  こらえてた涙が流れ出た。足がガクガクして、もう立ってることすら出来ない。  膝から崩れ落ちる俺を、蓮がとっさに受け止めた。それでも立っていられなくて、玄関に二人で座り込んだ。 「……なに……す……。……なんの……キス、だよ……っ。……ふざけんな……っ」    涙でぐちゃぐちゃの顔を上げられない。震える手で、蓮の胸を叩いた。  蓮は相変わらず何も言わない。  いいかげん頭にきて、拳で胸を殴りつけて顔を上げた。 「お……前……なんなの……っ!」    涙でぼやけて蓮の顔がよく見えない。  それでも、さっきまでとは空気が違う。  ずっと怒った顔でピリピリしていた空気が、今はもう感じない。  服の袖で涙をぬぐうと、泣きそうな顔で嬉しそうに笑って頬を染めた蓮がいた。   「な……んで、そんな顔……」 「……秋さんが……俺を好きだって、ずっと言ってるから」 「……っは、ぁ? 言って……ねぇよっ」 「言ってるよ。ずっと様子がおかしかった理由も。さっきの楽屋の話も。この涙も。震えてる手も、身体も。全部……全部俺が好きだって言ってる」  そう言って、嬉しそうに破顔する。  久しぶりに見る、蓮の笑顔。   「…………だ……だったら……なに……? だからって、なんでお前が……そんな顔すんの……っ。なんでキスなんかすんの……っ。マネージャーが好きなくせにっ。俺のことなんか好きじゃねぇくせにっ」  叫ぶように吐き出したら、胸が苦しくなって、また涙が崩壊した。

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