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両想いのその先は……✦side蓮✦3

 お節介な美月さんが置いていったピザを、ありがたく二人で完食して、順番にシャワーを浴びた。 「蓮ー。この間借りたTシャツとハーフパンツ、ねぇの?」  少し大きくて、ダボッとした俺のパジャマを着た秋さんが、裾を少し引きずりながらシャワーから戻ってきた。 「……秋さん、可愛い」  彼シャツならぬ彼パジャマ。  可愛すぎて頬がだらしなくゆるんだ。  着替えを用意するとき、どうしても欲求に勝てずにパジャマを用意した。  台風の日も、本当はパジャマを着た秋さんが見たかったけれど、実は我慢していた。  俺の顔を見て、秋さんがふはっと笑う。 「お前、これ着せたかっただけだろ?」 「うん。すごい可愛い。嬉しい」 「俺、可愛いの?」 「めちゃくちゃ可愛いっ」    秋さんがソファの隣に座ると思って端に寄ると、俺の膝の上にまたがってくる。 「えっ、あ、秋さんっ」  肩に頭をコテンと乗せて、 「蓮に、可愛いって言われるの、すげぇ好き」  と、悶絶したくなるほど可愛いことを言った。 「……秋さんが可愛すぎて、心臓こわれそう……」 「ははっ。蓮も可愛い」  秋さんが、そのまま何も言わず動かなくなったので、不思議に思いながら背中を撫でた。 「秋さん?」 「…………蓮」 「うん?」 「……上書き、したい」 「上書き?」 「……あの日、ここで、この体勢でした、すげぇ悲しいキスの、上書きしたい。……思い出すだけでつらいんだ」   台風の日のキスのことだ。  秋さんも、俺と同じ気持ちだったんだ。 「……俺、蓮が深いキスしてくれるの、期待して……。でもされるわけねぇよなって……。すげぇ、悲しかったんだ」 「俺は……キスしたら秋さんがもっと欲しくなって、でも深いキスなんてできるわけないのにって。すごい悲しかった」 「……同じだった?」  秋さんが、肩から顔を上げて俺を見る。 「うん。同じだった。俺も、上書きしたい」 「…………うん。いいよ。しよっか」  あの日と同じセリフ。  だから俺も、同じようにうなじに手を添えた。  秋さんが、首に腕をまわして俺を見つめる。 「……蓮、好きだよ」 「秋さん、大好き」 「俺も、大好き」 「俺のほうが、もっと大好き」    ふはっと秋さんが笑う。 「これさっきも玄関でしたな」 「うん。きりがないやつだね」    二人で見つめ合ってクスクス笑って、そっと唇を合わせた。  ゆっくりと口を開いて、お互いに優しくついばむようなキスをくり返す。  あの日できなかった、深いキス。  あのときの悲しいキスが、上書きされていく。  うなじに添えた手に力が入る。  さらに深く深く、唇を重ねた。舌を絡めるとゾクッとした。 「…………んっ、ぁ、……れん」    唇を合わせながら、秋さんがたどたどしく俺の名を呼ぶ。  口から漏れる熱っぽい吐息も、俺の舌に答えるように動く秋さんの舌も、愛しくて愛しくて泣きたくなった。 「……れん、……すき……だ……」 「……好き……秋さん……」  俺がどんなに強く求めても、秋さんは同じだけの熱で返してくれた。  どれだけキスをしても足りない。  さらに深く奥まで、秋さんを味わった。  ゆっくりと唇を離して、秋さんをきつく抱きしめる。  俺も秋さんも、もう息が上がっていた。 「秋さん」 「ん」 「ぎゅって、しがみついてて」 「え?」 「コアラ抱き」 「は? わっ」    秋さんを落とさないように抱きしめたまま、立ち上がって寝室に向かう。 「えー、そこはお姫様抱っこじゃねぇの?」  俺の後ろで足をクロスさせて、ぎゅっと抱きつきながら、クスクスおかしそうに笑う秋さんに、 「じゃあ次はお姫様抱っこで」  秋さんの頭にチュッとキスを落として、そう答えた。 「次も、あるんだ」  秋さんをベッドに下ろしてそっと寝かせて、腕の中に閉じ込めるように、覆いかぶさった。 「次もその次も、もうずっとずっと、数え切れないくらいあるよ」  髪を梳くように撫でると、くすぐったそうに目を細める。  撫でる手に秋さんの手が重なって、お互いに指を絡めた。   「……蓮。もう俺たち……ずっと、一緒だよな……?」 「うん。ずっと一緒だよ。もう秋さんを絶対に離したくない」 「……本当に……ずっと俺を離すなよな……」  熱っぽくうるんだ瞳で見つめてくる秋さんが愛しすぎて、もう胸が張り裂けそうだ。 「もう、ずっと離さない」    額にそっとキスをした。まぶたに頬に鼻に、そして最後に唇に……。  自然と深く重なるキスに、嬉しくて幸せで胸が熱くなった。      

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