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最終話 LIVE〜みんなの前で✦side秋人✦1

「リハ終了でーす! 本番もよろしくお願いしまーす!」  ライブのリハーサルが終わった。  メンバーと細かい打ち合わせ等も終わり楽屋に戻ると、いつものようにメンバー八人全員、俺の楽屋に集合した。  一応リーダーということもあるからか、なぜかいつも俺の楽屋に自然と集合する。  もう各楽屋に解散でいいのになぜなのか。   「なあ秋人。今日なんかあんの?」  京がペットボトルの水をがぶ飲みしながら、俺に聞いてきた。 「なんか? ってなんで?」 「だって、リハからすげぇ張り切ってんじゃん」 「……ん? そうか?」  いつも通りのつもりだったから、正直ちょっと驚いた。 「そうだよな。なんか朝からめっちゃ、ごきげんだしさ」 「つうか、なんかソワソワしてね?」 「してるしてるっ。ソワソワっつうか、ウキウキっつうか。絶対なんかあるだろ?」  メンバーが次々と畳みかけるように言ってくる。  え、マジか。俺ってそんなに分かりやすい……?  もうすぐ蓮が来る。楽屋に顔を出すようにと念を押したことを、ほんのちょっと後悔した。  蓮が来ても普通にしないと。普通に……。  ……もう蓮との普通の距離が分からないのにどうしよう、とうなだれた。  でもそれは一瞬で、いや待てよと思い直す。  もともとおかしな距離感で、それを維持してクランクアップまでやったんだった。  人前で蓮と会うのが久しぶりですっかり忘れていた。  そうだ、そのままでいいんだ。  ホッとして鼻歌が出そうになった。 「ほら、やっぱりウキウキしてる」  メンバーの言葉も、もう気にならない。  変に隠すとバレる、という榊さんの言葉を信じればいい。  好きだと気づく前の、俺がやっていた行動通りにすればいいんだ。今とほとんど同じだけど。 「まあな。今日、俺のすっげぇ好きな奴が来るから」 「えっ! なに誰、女っ!?」 「え、ついに交際宣言しちゃうっ?!」 「リュウジに次いで秋人もかー!」  リュウジにはもうファン公認の彼女がいる。  公認か。いいな……。すげぇ羨ましい……。  と思ったとき、何かが頭の隅をかすめた。  その何かを求めて思考をめぐらせるうちに、ひらめいた。  ……そっか。公認は無理でも…………。  名案がひらめいたとき、コンコン、とドアをノックする音が響いた。  ハッとして顔を上げると、開いたドアから蓮が顔を出した。 「あ、あの……失礼します……」 「蓮!」  俺は嬉しくなってかけ寄ると、飛びついてコアラ抱きをした。 「わっ、え、秋さん、えっ」 「みんなー、俺の恋人きたー!」 「…………っ?!」  びっくりというより驚愕した顔の蓮の耳元に、「大丈夫」とささやいた。  抱きついたままふり返ってみんなを見ると、リュウジと京以外みんな口を開けて固まっていた。  あれ? なんでみんな固まってんの? 「…………あれ、誰?」  メンバーのつぶやきに、慌てたように蓮が声を発した。 「あ、は、はじめまして、神宮寺蓮ですっ」  すると「……ああああ、違う違う!」とメンバーが次々と立ち上がった。 「蓮くんはもちろん知ってますっ! はじめまして!」 「どうも、はじめまして。いらっしゃい、うわさの蓮くん」 「さっきの、あれ誰? って、この抱きついてるこっちね」 「あ、えっ? 秋さんのこと?」 「え? あれ、俺のこと?」  飛び降りるように蓮から離れて、あらためてみんなを見た。 「うわぁ……。うわさ以上だね」 「SNSの動画って、ドラマに寄せて作ったキャラじゃなかったんだ……」 「俺、偽物かと思ったわ……」 「え……やっぱり本物?」 「宇宙人め! 秋人を返せ!」  一人だけ戦闘態勢のヤツまでいる。   「お前ら、何言ってんだ?」  首をかしげて問うと「いやいやいや、お前が変なんだろっ」と反論される。  まったく意味が分からない。 「だから言ったじゃん。秋人は無自覚なんだって」  京の言葉にさらに疑問を持つ。  無自覚っていったいなんのことだ。   「蓮くん、久しぶり。そいつらは気にしなくていいからこっちおいで」  ソファに座ってるリュウジが手招きをしたので、確かにそうだな、と蓮を引っ張ってソファに移動した。  横でまだ騒いでるメンバーは、もう放っておく。

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