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最終話 LIVE〜みんなの前で✦side秋人✦2

「お久しぶりです、リュウジさん。京さん」 「久しぶりー。蓮くんがいるとほんと秋人が面白いわ」 「え、面白いですか?」 「なに、面白いって」  疑問符を浮かべて京に聞くと、逆に聞き返された。 「秋人さ。いつもの自分とまったく違う自覚、全然ねぇの? なんかまたパワーアップしてるし」 「ん? うーん? ちょっとテンション高い?」  さっきウキウキしてると言われたので、そう言ってみる。   「……うん。ちょっとどころじゃねぇけどな」 「んー? どっか違う?」  蓮に聞くと「ううん」と首を横にふる。 「蓮くんに聞いたって分かんねぇわっ、そりゃ!」  ひゃっひゃっと愉快そうに笑う京と、横に固まってこっちを見てるメンバーから「秋人の顔、やべぇな……」の声。 「え、蓮……俺の顔やばい?」 「え? ううん。今日の秋さん、すっごいカッコイイ」  キラキラした瞳でそう言われて、一気に顔がほてった。  ……あれ? 蓮にカッコイイって言われるの……初めてかも。どうしよう。嬉しすぎて胸の鼓動がやばいことになった。  いやちょっと待って。俺いま、絶対に顔が赤い。それはさすがにやばいかも、と焦ってうつむいた。  誤魔化し方が分からない。どうしようと思っていたら、リュウジが突然声を上げた。 「お前ら、誰か楽屋に来る予定ねぇのか?」  すると「あ、やべ」と言ってゾロゾロとメンバーが出て行く。  京も「俺も、行った方がいっかなー?」と出て行った。   みんな出て行ってくれてホッとしたけど、なぜかリュウジだけ腰を上げる気配がない。 「……リュウジは? 行かねぇの?」 「俺、今日は誰も来ないし」 「そ……なんだ」 「なんで? 俺、もしかして邪魔?」  その言い方になにか引っかかりを感じて、なにか嫌な予感がして、サーッと熱が冷えていった。 「誰も、邪魔なんて言ってねぇ」  顔を上げると、ニヤニヤした顔のリュウジがそこにいた。  なんでそんな顔で見てんの? 「秋人さぁ。ダダ漏れすぎてやばいよ? もう少し隠さねぇと」  ギクリとした。でもドラマの撮影中もずっとこの距離感でやってきた。白を切り通せば大丈夫、と自分に言い聞かせる。  隣に座ってる蓮にも、ピリッと緊張感が走ったのが分かった。 「隠すってなんだよ? 言ってること分かんねぇ」 「たぶん、京も気づいたよ?」 「……だから、何をだよ?」  京も気づいた……?  撮影中は誰にも何も言われなかった。  榊さんも大丈夫だと言っていたし、今それと同じようにやっていただけなのに。 「俺ら、何年一緒にいると思ってんの? そんだけあからさまにデレてたらバレるって」 「……あの、なにかすごい勘違いされてると思います」  蓮がものすごく冷静に話しだした。  まるで役が入り込んだときのように、別人だった。 「俺たちドラマでずっとこんな感じだったから、終わってもなかなか普通の距離感がつかめなくて。秋さん、最初からずっとこんな感じでした」 「うーん? でも、前に蓮くんに会ったときの感じとも全然違うよ?」 「……えっ」 「二人の空気が、全然違う」 「は……? 何……言ってんのか全然分かんねぇ……」  空気ってなんだよ、と意味のわからないことを指摘されて焦る。  もっと慎重にすればよかったと後悔しても、もうあとの祭りだ。  リュウジはもう疑ってるのではなく、確信を持って言っている。  どうしたらいいのか分からなくて、冷や汗が止まらない。   「あ、いや、勘違いすんなよ? 俺反対しないから。むしろ蓮くんには感謝しかしてないよ」 「…………え?」  リュウジのセリフに驚いて、必死に貼り付けていた仮面がはがれた。 「反対……しねぇの?」 「あ、秋さんっ?」  引っ張られて隣を見ると、なんで認めるようなことを言うのかと蓮の目が訴えていた。   「反対できねぇよ。秋人がせっかく蓮くんのおかげで人間らしくなったのに」 「は? なに、どういう意味?」 「俺、お前がロボットじゃねぇのかなって、本気で思うときあったんだよね」  突然何を言うのかと眉が寄った。  なんだよ、ロボットって……。 「感情が抜け落ちてるっていうのかな? ずっと貼り付けたような笑顔でさ。まるでロボットっつうかアンドロイドじゃね? ってさ。でも今のお前は、ちゃんと生きてるって感じ。本当に幸せなんだなぁって分かるよ」 「リュウジ……」  知らなかった。蓮に出会う前の俺がそんな風に見えていたなんて。  

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