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最終話 LIVE〜みんなの前で✦side秋人✦4

 もうすぐ本番。  開演三十分前には蓮は客席へ向かって、リュウジも自分の楽屋へ戻っていた。    舞台の真下からセリ上がる演出のため、奈落に向かう。  京の楽屋前を通ったとき、ちょうどドアが開いて京とリュウジの二人が出てきた。  京の顔を見て、ギクリとする。  どんな顔をしたらいいのか分からない。  京が何を言うのか身構えていたら「ばーか」と言われた。   「…………バカ?」  開口一番にそれってどういう意味?  京はまわりを確認してから、抑え気味に話し出す。   「お前、あんまり堂々とするから隠さない方針かと思ったぞ」  ひゃっひゃっとまた愉快そうに笑う。  あ、そういう意味のバカか、と納得した。 「撮影中もあんな感じで、大丈夫だったんだよ……」 「うん、リュウジから今聞いた。ま、俺たちだから分かっただけだよ。そのままで大丈夫じゃね?」 「……ちょっと榊さんと相談するわ」 「俺は秋人が面白いから、そのままがいいけど」  そう言ってまた笑う。   「な、大丈夫だったろ?」  リュウジの言葉に、本当にようやくホッとできて胸をなでおろした。 「あ、そうだ。あのさ…………――――」  まわりに人がいないうちに、俺は楽屋で思いついた舞台でやりたいと思ったことを、二人に相談した。  本当は誰にも確認なんて入れるつもりはなかったが、これをやったらバレる危険はあるのかな……と不安になってしまったから。  すると二人が吹き出して笑った。 「いいんじゃね? そんなの、ただのファンサービスだと思われるだけだって」 「そうかな?」 「やってやって。盛り上がるから!」 「うん……じゃあ、そうするわ」  良かった。許可が出た、とホッとした。  どうしてもやりたかったから。  嬉しさを隠せないでいると、京の視線を感じて横を見た。 「なんだよ?」 「…………いや、変わるもんだなぁと思って。お前って、そんなかわ――――」 「可愛いって言うなよ」  予想できたから、聞きたくなくてさえぎった。 「えー? いいじゃん本当のことなんだし」 「そんなの、嬉しくねぇし」  それに俺は……。 「蓮にしか、言われたくない」  二人の足が止まったのでふり返ると、あ然とした顔で俺を見てた。  もうバレてるから怖いものなしで、俺はもう一度二人に念を押す。   「二度と言うなよ、可愛いって」    奈落に集合して、メンバー全員でスタンバイ。  舞台下からゆっくりとセリ上がった。  俺たちの登場に、一気に会場が湧いた。  舞台にセットされた火花が上がる。  光の演出に、腹に響くほどの大音量で音楽が鳴り響く。  客席からの歓声。会場の熱気がもうすでにすごい。  青で統一されたペンライトの光が、幻想的で綺麗だった。  スタートから二曲歌い上げる。  歌いながら、踊りながら、俺の視線は蓮に向く。意識せず客席に目を向けると、蓮が自然と飛び込んでくる感覚。  胸がくすぐったくなった。蓮が客席から俺を見てると思うと、それだけで高揚感が半端ない。  リハのときから蓮の席はチェックしていた。  でもそんな必要はなかったと、始まってすぐに分かった。  セリ上がった瞬間に、自然と蓮が視界に飛び込んできたから。  まるでそこだけ光が当たってるかのように、俺には蓮だけがはっきりと見えた。 「みんなーーー!! 今日はPROUDのライブに来てくれてありがとーーーー!!」  第一声を叫んだあとは、いつものように他のメンバーにゆだねる。  割れそうなほどの歓声と、ゆれる青い光の粒。  その中でひときわ輝いて見える、蓮の姿。  光ってるはずがないのに不思議すぎる。  きっと俺が大好きすぎるからだな、と思って笑みがこぼれた。    また数曲歌ったあと、ソロ曲をはさむ。  俺は今回バラードを歌う。たぶん初めての、恋が成就する歌。  今までソロ曲のバラードでは、なぜか悲恋の歌が多かった。でも今回は悲恋なんて絶対に歌いたくなくて、恋が成就する歌を無理を言ってねじ込んだ。  静かに曲が流れ始める。  今日だけは、ごめん、とファンの子たちに心の中で謝罪をした。  目を閉じると、もう自然と蓮が浮かぶ。  いつも何をしていても蓮のことを考えて、蓮を想ってる。俺の中の大半を蓮が占めてる。  ゆっくりと目を開くと、眩しそうに俺を見ている蓮が目に飛び込んできた。  蓮に出会えて本当に良かった……。  あふれるほどの好きの気持ち。  この気持ち全部、蓮に届きますように……。  そう願って、蓮だけを想って俺は歌った。  

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