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実家に行く✦side蓮✦終
「秋さん。あの……俺たちのことは、いつ話したの?」
「いや。俺は話してねぇよ。結婚式まで話す気なかったし」
「え……でも……」
「わかっちゃったのよ。秋人を見てたら」
お母さんが秋さんを見てふふっと笑った。
「片想いかなぁってずっと思ってたんだけどね。この間のドッキリ観て、なぁんだもう恋人なんだ! って。秋人が『もう俺フラれたの?』ってこの世の終わりみたいに言ったときは驚いて叫んじゃったわよっ」
お母さん隣でお父さんもうんうんと頷いている。
ああそうかそれで……と納得した。合図に気づいたあとは親友として修正をかけたけど、きっともう二人には通用しなかったんだ……。
「蓮くん、秋人が出たドラマのラブシーン観たことある?」
「えっ、あ、はい。もちろん全部観てます」
「恋してないでしょ? 観てても全然ドキドキしないの」
「えっ! そんなことないですっ!」
秋さんはラブストーリーの主演を何作もやっていて、大先輩ですごく尊敬してる。ドキドキしないなんてそんなことない。本当にそうなら、主演なんてできるわけがない。
「もうそれ聞き飽きたってー。どうせ俺は大根役者だよ」
「秋さんは大根役者じゃないよっ! 俺、秋さんの作品大好きで全部見てたよ。秋さんは感情を乗せるのがすごく上手だから、俺何度観ても感動して泣いちゃうもん。すごい冷酷な役も、すごい優しい役も、どれもちゃんと演じ分けてて俺本当に尊敬してる。だから俺、秋さんが相手役だってわかったとき本当に嬉しかった」
部屋がシンと静まり返った。しまった、思わず熱弁してしまった。
恥ずかしくなって顔が熱くなる。
「蓮……キスしていい?」
「えっ! な、なに言ってるの秋さんっ、ダメ、ダメに決まってるでしょっ」
「だっていまのはキスしたくなるだろ」
「ダメですっっ!!」
お父さんとお母さんがニヤニヤしながら俺たちを見てる。
「どうぞどうぞ、こっちは気にせず、キスしていいぞ?」
「し、しませんっ!」
そう宣言すると「なぁんだ残念」と二人にガッカリされた。
「まぁ、秋人のラブシーンは母的にはドキドキしないのよ。いままではしなかったの。でも、蓮くんとのキスシーンは違った! ちゃんと恋してた。すごいドキドキしちゃった。それでピーンときたの。SNS動画もテレビ用の顔じゃなかったし、だからわかっちゃったのよ」
「……怖ぇよな。勝手に結婚式挙げちゃって! って電話で言われたときはマジでビビった」
「そうそうそれね! 秋人の片想いだと思ってたから、ライブで見たときは気づかなかったのよ。もう恋人なんだってわかったら、あれって人前式だったんだー! って。もぉすごい素敵! もう一度見たいわぁ」
「あ、SNSに上がってるイラスト見た? すげぇんだよ、見る?」
「なに? どれどれ?」
秋さんがスマホに保存してある人前式のイラストを二人に見せると、お母さんが「キャー!」と大騒ぎになった。
他にも見たい! となって、またSNSでイラストを検索した。初めて見る絵がまたたくさん上がっていて、俺も秋さんも一緒にみんなで大騒ぎになる。
秋さんはまた別のイラストを保存して、ホクホクしていた。
「あの、ひとつうかがってもいいですか?」
「うん? なんだい?」
「どうして……僕たちのことを、こんなに普通に受け入れてくださるんですか? その……嫌悪感とか抵抗とか……なかったんですか……?」
いまこんなに普通に接してくれているのに、わざわざ聞くのも……と思ったけれど、本当の気持ちをどうしても知りたかった。
「抵抗かぁ。うーん。これは質問の答えになってないかもしれないけど、秋人が蓮くんを好きなんじゃないかって母さんが言い出したとき、思ったのはひとつだったな」
「あ、私と同じやつね?」
「そうそう母さんと一緒に言ってたんだよ」
二人で目を合わせて一緒に口を開く。
「秋人は守られたいタイプだったんだなぁって」
「秋人は守られたいタイプだったのねぇって」
隣で秋さんが「ぶふっっ」とコーヒーを吹き出そうになっていた。
「は、はぁ? なんだ……それ……」
「だぁって。PROUDのしっかり者のリーダーで、抱かれたい男ランキングにも毎年選ばれてるのに、蓮くんの前じゃ甘えたくんじゃないの」
お母さんがお見通しだと言うような顔をした。
「あのSNS動画な。世間じゃドラマと真逆って言われてたけど、どこがだ? って感じだ。抱きつくわ手は繋ぐわ常にベタベタ……親の目はごまかせないぞ?」
お父さんがあきれ顔で言った。
「あ、甘えたくんってなんだよっ」
「甘えたくん……可愛い……」
「は、初めは蓮のが甘えただったんだからなっ! 絶対!」
頬を桃色に染めて秋さんは必死に反論する。
え、そうだったっけ? 俺甘えただったっけ?
……まあ、そういうことにしておこう。
「いまは甘えたくんだって認めてる」
ぷふふとお母さんが笑った
「だからね、秋人の恋が実って良かったーって気持ちしかないの。抵抗なんて全然ない。だから安心してね」
「うん、俺も母さんと同じだから心配いらないよ」
嫌悪感も抵抗も何もなかったんだと知ることができて、嬉しくて心が震えた。
「……あ、ありがとうございます。すごく、嬉しいです」
俺たちのことを理解して普通に受け入れてもらえるのって、本当に幸せなことだと思う。でもこれに慣れたらダメだ。最悪の場合をいつも覚悟しておかないと、ダメージでやられてしまいそうだ。
俺の親に挨拶に行ったら……いったいどうなるだろうか……。
「あ、そうだ蓮くん。これだけは伝えようと思っていたんだけどね」
「は、はい」
ふと真面目な表情になったお父さんに、なにを言われるのかとドキっとする。
「なんだか急に結婚の挨拶みたいになっちゃったけどね。蓮くんのお家にも報告しなきゃ、なんて思わなくていいからね」
「あ……でも……」
まさにいまそれを考えていたから、図星をつかれて驚いた。
秋さんのお家に挨拶したのなら、俺の家にもちゃんと話しをするべきじゃないのかな。
「そうそう。無理しなくていいからな、蓮。俺だって本当は、結婚式まで話すつもりなかったんだし。うちはこんなんだからさ、同じだと思わない方がいい。無理すんな」
確かに、うちはこんなに簡単に行かないかもしれない。
父さんは頑固だし、母さんはぽわぽわしててどう反応するのか全く予想がつかないし……。
「二人で、いつにするかゆっくり考えよ? 挨拶なんていつでもできるからさ。結婚式だって、いますぐできるわけじゃないし……」
本当はいますぐしたいんだけどな……、とボソッとつぶやいて秋さんが寂しそうに笑った。
「そのうち、同性婚だってできる世の中になるかもしれないぞ。ゆっくり待ってみればいいさ」
お父さんの言葉に秋さんが「ほんと、そうなってほしー」と声を上げた。
「そのときは、こっそりじゃなくてでっかい結婚式するからよろしく」
「わぁ! 楽しみね!」
夢のまた夢の話かもしれないけど、もしもの話ができる相手がいるだけで、すごく幸せな気分になれる。それをまさか秋さんの家族とできるなんて思いもしてなかった。
「秋さん……」
「ん?」
「今日、ここに連れて来てくれてありがとう」
「うん。蓮も、来てくれてありがとな」
「なんか、幸せだね」
「うん。ほんと、幸せだな」
二人で目を見合せて微笑んだ。
「さて、息子よ、一緒に酒を飲もうじゃないか」
お父さんが唐突にそう言った。
「あ、飲んでいいよ秋さん。帰りは俺運転するから」
「蓮くんに言ってるんだぞ?」
優しい瞳でお父さんが俺を見た。
「……あ……え?」
お母さんは「お酒なにがいい?」と立ち上がる。
秋さんは俺を見て、繋いだ手をぎゅっと優しく握りなおして微笑んだ。
「……む、すこ……?」
「ん? もう息子でいいだろう?」
もう、息子なんだ。息子って言ってもらえるんだ。
嬉しくて涙がにじんだ。
「…………はい……はいっ、もちろんですっ」
「あ、父さん、蓮泣かせたー」
「ええ?」
「あらあら」
俺はすごくすごく幸せ者だ。
いつか秋さんを連れて、俺の親にも挨拶に行こう。
もし反対されたって関係ない。
俺はもう一生、秋さんのそばを離れるつもりはないんだから。
end.
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