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続きのお正月~キスマ編✦side秋人✦1

 アラームで目を覚ますと、なぜか服を着たまま寝ている自分がいた。  あれ、俺いつ帰って来たっけ。どうやって帰ってきたかもよく覚えていない。  『お前いつも一次会で帰りやがってー』とリュウジに二次会へ無理やり連れていかれて、最後に京と榊さんと四人になったところまでは覚えてる。  蓮のことを知ってるメンバーしかいなかったから、普段言えないノロケ話をいっぱいした。ものすごく良い気分で酒がすすんで……でもそこで記憶が途切れてる。  マジか……俺なんかやらかしてないかな……。    時計を見ると十二時半。  蓮に出番の時間を再確認したかったのに寝てしまった。でも変更があれば教えてくれてただろうし、予定通り十三時すぎで変わってないだろう。  さっとシャワーでも浴びるか、と起き上がった。  酔っ払ってても、ちゃんと蓮の出番に間に合うように目覚ましをかけた俺えらい、と自分をほめた。  洗面所で服を脱ぎ、鏡の前に立とうとしてやめた。  つい癖でキスマを探そうとしてしまう。昨日はシてないから探しても無駄だ。シてても無駄だけど……。  いままでキスマなんてつけたいと思ったこともないし、ましてやつけてほしいなんて思う日がくるとは思ってもいなかった。  なぜか蓮の前だと甘えたくなる。めちゃくちゃ甘えてドロドロにとかされたい。本当はあちこちキスマだらけにしてほしい。  はぁ、やば……。俺イタすぎる……。  シャワーを浴び終わり、ドライヤーで髪を乾かす。  歯を磨きながら鏡をボーッと見ていると、ふとTシャツの首元からのぞく鎖骨が赤く見えて手が止まった。 「え……」  歯ブラシをくわえたまま首元をグイッと下げると、赤紫の痣がくっきりと付いていた。 「虫……かな……?」  こんな冬に虫なわけがない。わかってる。でも違ったらショックだから一応保険で言ってみた。 「うそだろ……マジで? キスマ……?」  今日から五連休。だから夜イチャイチャするときにおねだりしようと思っていた。  もしかして蓮も同じこと思ってた……?  だから俺が寝てる間にこっそり付けたのか?  やばい……嬉しすぎてクラクラする。  いままで何度もキスマを探してガッカリした。蓮がつけるわけないってわかっててもガッカリした。  期待してなかったキスマを見つけるって、こんなに嬉しいのか。  鏡に映る俺の顔は真っ赤だった。  いや赤くなるだろ、こんなサプライズ。  うわ……やばい、めっちゃ幸せ……。  俺はキスマをいろんな角度からながめて、何度も撫でた。蓮がキスマをつけてるところを想像して一人でもだえる。やばいめっちゃ可愛い俺の蓮……。  正月特番のお笑い番組にゲスト出演する蓮を、テレビに張り付いて観た。トークの合間にときどき邪魔しにやってくる新人芸人に、○×の札でジャッジをするという内容だった。 『いやいや蓮くん○ばっかりやん、ちゃんとジャッジしてやー』 『え、いや、本当に面白くて』 『ええ? ホンマにぃ?』  俺はぶはっと吹き出した。 「蓮は絶対全部○だよな」  蓮と一緒にお笑いを観ると、俺が笑わないところもずっと笑ってる。本当に楽しそうに笑う。お笑いを前にすると、とにかく笑いのツボが浅すぎるんだ。 『こんなに笑ってもらったの初めてです! もう感動です!』  新人芸人さんが蓮に涙を浮かべて感謝してる。 『本当に面白かったです。これからも応援してます』 『神がおる。ここに神がおるでっ』  司会のヤスさんがあきれたように笑ってる。  あ、これSNSどうなってんのかな。  さっそく見てみると、案の定好感度が爆上がりしていた。 『全然おもんない漫才に本気で笑ってる蓮が可愛すぎなんですがっ?』 『蓮くんが笑ってると面白い気がしてくるマジック!』 『やばい、蓮可愛い、笑顔やばい!』 『神宮寺蓮ってこんな感じだったっけ? ギャップやばすぎ……』  だよな、こうなるよな。  あんまり可愛い蓮をテレビで見せないでほしいんだよな。  SNSの反応に「な、蓮すごいだろっ!」って余裕ぶっこいていた頃が懐かしすぎる。  どんどん俺だけの蓮じゃなくなっていく気がする。   ファンの子に嫉妬するって……やっぱ俺イタすぎる……。 『正月はなにするん? あ、ニコイチ秋人くんと一緒に遊ぶの?』 『あ、そうですね。どっか行こうかって話してます』  蓮がスッと役に入ったのがわかった。  俺と友達という役だ。  これ本当に便利だな、といつもうらやましく思う。俺にはそんな才能はないから、蓮とのことをイジられるたびに心臓が跳ね上がる。  昨日のライブでもいまと同じ質問をメンバーにされた。なんでみんな同じことを聞くんだろう。   『みんな、もしかしたらどっかで二人に会えるで!』 『あはは。もし会えたらよろしくお願いします』 『いやいやちゃうやろ。そこはそっとしといてね、の間違いやろう』 『あれ、そっか。そうですね』  ヤスさんが『ホンマに人がよすぎやで』とまたあきれてる。  そこにまた新人芸人さんが割り込んできて、今度は漫才ではなくコントが始まった。  蓮が本当に楽しそうだ。  顔をくしゃくしゃにして大笑いする蓮を見ていると、こっちまで笑顔になる。  そしてやっぱりジャッジは〇。お情けの〇にはまったく見えないところがいい。蓮は本気で笑ってるから本気の〇なんだ。テレビからでも蓮の優しい空気が流れてくる感じがした。  そんな蓮マジックに、テレビを観ながら始終和んだ。  蓮の出番が終わると速攻で録画編集をして、ファイルに鍵をつけて一人ニマニマした。  録画の蓮をエンドレスで流して観ながら、蓮が隠してるのか隠してないのかよくわからないカップ麺で年越しちゃったそばを食べ、またSNSをチェックした。    『元旦からこんなに蓮の笑顔を拝めるなんて! ほんと幸せすぎたぁ!』  だよなぁ。ほんとなら俺だけが見てたはずなのになぁ。 『あきれん、正月も一緒に過ごすんだ。ほんと仲良いなー。どこ行くのか教えてほしい。会いたいなぁ』  会えたら写真撮ってもいいよ。SNSに上げてね。 『神宮寺蓮って初めて知った。めっちゃ可愛い誰この人って思って調べたら、ドラマではめっちゃカッコイイ! なにこのギャップ! あとで絶対ドラマ一気見するっ!』  まぁたファン増えた。いいけど蓮は俺のだからな。  SNSを見ながら脳内でファンの子と会話をして、録画の蓮を見ているうちに、ソファでそのままウトウトと俺は眠りに落ちた。 

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