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基準は三回✦side蓮✦1 *
「神宮寺くん」
事務所に呼ばれ、ドラマや映画の出演依頼をどうするかを整理していると、ドアの向こうから田端さんが手招きした。
田端さんは現在三十六歳のベテラン俳優で、主演はもちろん助演でもたくさんの作品で活躍されている、俺の尊敬する大先輩だ。
「田端さんっ」
立ち上がってドアまで行くと、田端さんが勢いよく俺の手を取って強くにぎり「ありがとうっ!!」と言ってぶんぶんと上下に振った。
「神宮寺くんの紹介で、ほんっと理想どおりの結婚式を挙げられそうだよっ! 本当にありがとう!」
「いえ、俺はなにも。結婚式おめでとうございます」
「うん、ありがとうっ!」
そもそも俺の紹介というのもでっち上げで、すべて榊さんの提案だ。田端さんにはなにもデメリットはなさそうだが、勝手に隠れ蓑にしてしまう罪悪感で心が苦しい。
「貸し切り費用はサービスでって言われたんだけどさ。挙式代もなんだかすごいサービスされてるみたいで、ありえないくらい破格なんだよ。本当にいいのかなってくらいでさ」
表向きはそういうことになっている。でも実際は、俺たちのチャペルを貸し切る費用を田端さんに上乗せし、その総額が俺たちと折半になっていた。田端さんの知らぬところで、そういう裏事情があった。ううう。心が痛い。
チャペル代だけでいいと言われたけれど、勝手に利用させてもらう代わりに、せめてそれくらいは田端さんにお返しがしたい。そんな俺たちの希望を真紀おばさんは呑んでくれた。
ホテル側への説明はどうなっているのか気になったけれど、極秘挙式が初めてではないから大丈夫だと太鼓判を押された。その辺は俺たちが知らなくてもいいということだろう。
「いまはオフシーズンなので、きっとサービスも大きいんですよ。俺の力じゃないので、本当に気にしないでください」
「いやいや、ほんっとありがとうねっ! このお礼はいつか必ずっ!」
「いえ、いいですっ、お礼なんてっ! 本当に俺の力じゃないんでっ!」
これでお礼なんてもらったらバチが当たるっ。俺は断固拒否をした。
田端さんはしきりにお礼を言って、満面の笑みで手を振って帰って行った。
今回、田端さんを利用することに対して、俺はものすごく罪悪感でいっぱいだった。でも、あんなに喜んでくれていると知って、すごく心が軽くなった。
もう少しで本当に結婚式だ。
両家の顔合わせも終わったらしい。らしいというのは、俺たち抜きの顔合わせだったからだ。
本人抜きで顔合わせなんて聞いたことがない。……もしかして意外とあるんだろうか。……いや、ないだろうなやっぱり。
衣装合わせも先日終わった。あと俺たちがすることは……。
「なぁなぁ、蓮。誓の言葉さ」
今日も一日が終わり、秋さんを抱きしめてあとは寝るだけとなったとき、秋さんが俺の腕の中で誓の言葉について口にした。
あとは誓の言葉をどうするか、と真紀おばさんに言われていた。
「人前式なら自由じゃん? だからさ。俺どうしてもさ……」
「秋さんの考えてること、俺わかると思う」
「え?」
「きっと俺と同じだと思うな」
「なになに。言ってみ?」
俺は秋さんの耳元でささやいた。
秋さんは、しばらく黙り込んでから、俺の胸に顔をすりすりしてきた。
「蓮……めっちゃ好き。うぁー……もぉ……めっちゃ愛してる」
「ね、同じだったでしょ?」
「ん、同じだった」
そう言って顔を上げ、ゆっくりと俺の唇にキスをする。
優しくついばむキス。見つめ合いながら微笑んで、何度も唇を合わせた。
「蓮……好き」
秋さんの暖かい手が俺の両頬を包み、まぶたにキスが落ちた。
「俺も」
「大好き」
額にキスが落ちる。
「ふふ、うん」
「愛してる……」
次は、鼻の頭にキス。
「……あれ? これ、好き好き攻撃?」
「めっちゃ好き。愛してる。ずっとそばにいて……蓮」
顔中にキスをされて、幸せで胸がいっぱいになった。
「……な? めっちゃ恥ずいだろ?」
「ううん? すっごい幸せになっちゃった」
「……そんだけ?」
「幸せで胸がいっぱい」
「…………恥ずくねぇの?」
「恥ずくないよ?」
おもしろくなさそうな顔で秋さんが拗ねた。
「あ、でも心臓はすごいことになってるよ?」
それを聞いた秋さんが俺の胸に耳を当てた。
「……ほんとだ、やべぇ……すげぇ安心する。……てか、それなら恥ずいってことじゃねぇの?」
むくっと顔を上げて不可解な面持ちで俺を見た。
「恥ずいって顔が赤くなるんじゃないの?」
「……そう、かも。あれ、顔赤くねぇな」
「よくわかんないけど、恥ずいより嬉しくて幸せ」
「……なんかわかんねぇけど、心臓の音が嬉しいからいいや」
ふにゃっと顔を崩して、また胸に耳を当てる秋さんが悶絶したくなるほど可愛い。
今日は帰宅してすぐに抱き合った。あんなに激しく抱き合ったのに、また襲いたくなってきた。
だめだ。秋さんの負担になる。
「じゃあ次は俺が秋さんに好き好き攻撃――――」
「いいっ!」
「え?」
「い、いいよ。いま弱ってねぇからっ」
「えー、俺もやりたい」
「いいってばっ」
全力で拒否された。
酔った秋さんに好き好き攻撃をねだられたのが忘れられない。いつもやってほしい願望からだと思ったのに、シラフでやろうとすると断られる。
「……好き好き攻撃は特別だからいいんだってば。……特別なときにやって」
「……うん、わかった」
やってもいないのに秋さんの耳が赤い。可愛い。
もっとすごいことも平気でするくせに、好き好き攻撃には真っ赤になってタジタジになる秋さんが本当に可愛すぎる。
「秋さん、キスしていい?」
腕の中で秋さんがふはっと笑った。
「なんで聞くんだよ。そんなの一日中OKだってば」
許可が下りた。俺は秋さんを抱きしめたまま身体を反転し、秋さんの頭を枕にそっと沈めた。
「愛してる。俺の秋さん」
「……それも特別なんだけど」
秋さんは、頬を薄く染めながら俺のキスを受け止める。
襲いたいと思ってしまったから、軽いキスでは済まなかった。
「……んっ、……ふっぁ……っ、れん……」
「秋さん……好き……」
「ん……好き……れん……」
秋さんの優しい舌の動きが愛おしい。
嬉しそうに細める目も、うなじを優しく撫でる手も、ときどき甘えるようにスリスリする足も、全部愛おしい。
もうすぐ結婚式。でも婚姻届を書いたあの日から、俺たちはもう夫夫 だ。まだ夢みたいで信じられない。
唇をずらし耳を舐める。秋さんは耳孔に舌を入れられるのが弱い。
「んん……っ、はぁ……っ……」
ふるっと身体を震わせて感じている秋さんに、下半身がうずく。
あとは寝るだけ。そのつもりだったのに止められない。
「……んっ、……れん……する?」
「……しない。イチャイチャするだけ」
「……あ……っ、ん……じゃあ、も……だめ。ほしくなっちゃうだろ……」
「もうちょっと」
「んんっ、ぁ……っ、……だめだ……って……」
パジャマの裾から手を入れて、胸の突起を指の腹で撫でる。
「は……っぁ、……ま、まてまて……んんっ、それ……本気モードだろっ、……あっ……」
気持ちよさそうによがる秋さんに、俺はもう完全にタガが外れた。
パジャマをたくしあげ、じらすように乳首を優しく舐める。
「んん……っ、おい、こら、蓮っ」
「もう俺、止められない……。ねぇ、抜き合いしよ? あ、舐め合う?」
「ぜってーやだっ」
「なんで……」
「蓮。イチャイチャするなら入れろ。入れないならもう終わり。どうする?」
今日はもう秋さんに三回も入れた。これ以上はだめだ。秋さんの身体が心配。
「……イチャイチャだけしよ?」
「それはなしだっつーの。したいなら入れろっ」
「でも秋さんの身体が……」
「俺の身体は平気だって」
「でも……」
「あーもー。またこんな理由で喧嘩してぇの?」
「まさかっ。したくないよっ。……でも……だって俺、ネコはやったことないから、どれくらい大丈夫かだめか、わかんないから怖い。秋さん、もう無理って絶対言わないし……」
「だって無理じゃねぇもん。無理ってなるのは身体じゃなくて喉だな」
「あ……喉……」
そうだった。あのときから俺は無茶をするのが怖くなったんだ。やっても三回。俺の中でそんな基準ができた。
秋さんがすり寄ってきて、俺の胸にトンと頭を預ける。
「まだ喉も平気。だからやるなら入れろ。それともやっぱやめる?」
「…………舐め合いだけでも気持ちいいよ?」
「はぁ? もーまだ続けんの?」
秋さんは顔を上げて俺を睨んできた。
「お前はそれでいいかもしんねぇけどさ。俺は無理なのっ。後ろがうずくんだよっ。ほしくてたまんなくなんのっ」
「そ……っ」
そうだったのか。それは俺にはわからないから気づかなかった。……いや、あれ……そういえば前に喧嘩したときも、そんなことを言っていた気がする。
「……わかった」
「やっとわかった?」
「……うん。…………じゃあ今日は……」
「ん。じゃあもう寝――――」
「ゆっくり優しくやる」
「え?」
「え?」
びっくりした顔で俺を見た秋さんが、三秒固まったのち、ふはっと笑った。
「ん。じゃあ、優しくやって?」
「精一杯、頑張ります」
「ふはっ。可愛い」
俺たちは見つめ合い、優しくキスを交わしながらパジャマを脱がせ合った。
やっぱり秋さんは、裸で抱き合うときが一番幸せそうな顔をするんだ。
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