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#1「とんだお人好し」 ⑥

「嘘だ。なんで、お前なんかと」  あまりにも突拍子のない雨宮の発言。そう簡単には受け入れられない。 「嘘じゃないよ。一目見た時から僕の事好きだったんだって」 「…またからかってるんだろ、胸糞悪い嘘はやめろ」 「だから嘘じゃないって。…ねえ、遥ちゃんさ、処女だったよ」 「は?」 「初めてだったんだって」 「初めてって…」 「僕が遥ちゃんの処女もらっちゃった。つい昨日」  そう言って雨宮は自身のスマホを取り出した。そこに映っていたのは… 「あっ、あん、あ、あまみやくん、あっ」  目隠しをされ、手を縛られ、裸で横たわる遥ちゃんの動画だった。 「お前…っ、なんだよ、これ…!」 「泉くんに見せようと思って。遥ちゃんのハメ撮り。喜ぶかと思って」 「喜ぶわけねえだろ! お前…、こんな事してただで済むと思ってんのかよ!?」 「なんで? 興奮しない? 好きな子の裸見れるんだよ。見たくないの?」  友達の女子が裸の状態で手を縛られ、カメラで撮られているこの状況が異常なのは明らかだ。なのに目の前のこいつは、さも当然かのように、悪びれもせず画面を見せつけてくる。 「動画消せ」 「なんで?」 「なんでじゃねえだろ…? ふざけるのもいい加減にしろよ!」 「だって、別にネットにアップしたりするわけじゃないんだよ? 泉くんに見せようと思っただけ。遥ちゃんにも撮ってることはバレてないしね」 「いいから消せ! こんな事されてるって知ったら遥ちゃんがどう思うか考えろ!」 「……偽善者」 「はあ?」 「お人好しの偽善者。本当は見たいくせに。どうせ君は遥ちゃんと付き合えないし、セックスだって出来やしない。だって遥ちゃんは僕が好きなんだから」 「い、今関係ないだろそんな事は…」 「いいよ。僕を遥ちゃんだと思ってくれてても。遥ちゃんに見立ててセックスすればいい。僕は泉くんが好きなの。お願い、セックスするだけ。それだけでいいから」 「…俺はお前のことなんか大っ嫌いだ。ぶっ殺したいくらい」 「…本当はそんな怖いこと言う人だったんだ。困ってる人を見過ごせない、ただのお人好しだと思ってたけど」 「うるせえ」  そう言って雨宮の身体を無理矢理後ろ向きにさせ、髪の毛を思い切り掴む。 「痛い、痛いよ泉くん」 「黙って突かれてろ。言ったよな、お前。セックスするだけでいいって」  髪を掴んだ状態のまま、怒りをぶつけんばかりに腰を振る。 「あっあうっ、あっ、いずみくん、あっ、あんっ、中で、中で出して、いずみくん」  このどうしようもない怒りと性欲を、仕方無くこのクズで発散しようと自分に言い聞かせながら、雨宮の中に射精した。 「はあ、はあ、泉くん…」  キスをしようとしてきた雨宮を押しのけ、雨宮の脱いだ服を投げつける。 「泉くん?」 「帰れ」 「え…」 「ここから学校まで一駅だけだから、歩きでも三十分あれば帰れるだろ」 「泊めてくれるんじゃなかったの?」 「うるせえ。とっとと帰れ。…顔見てると…、殺したくなる」 「…!」 「動画も消せよ」  雨宮が少しだけ泣いてたように見えたが、敢えて無視をした。  当然、遥ちゃんと付き合い始めたという事実もショックだが、あんな動画を撮った事への怒りの方が俺を蝕んだ。  あいつの目的は一体何だ? 動画を撮った理由は? 本当に俺を喜ばせたかっただけか?  ひいては遥ちゃんと付き合った理由は? 俺を好きだとかなんとか言っておきながら。俺と遥ちゃん、両方好きって事なのか…?  わからない。あいつの考えていることが。あいつという人間が。無論、あんな人間のことなどわかりたくもない。

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