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#1「とんだお人好し」 ⑦
金曜日。
体調が悪い。結局あの後は一睡も出来なかった。授業中に寝てしまいそうだ…なんて事を考えながら廊下を歩いてる最中、またあの二人に出くわした。
「泉くん! おはよう!」
「…おはよう」
「昨日どうしたの? 授業出てないでしょ」
「えっと…風邪をひいてて」
「もう大丈夫なの?」
「うん」
「そっか、よかった」
どうしても昨日見た動画が頭をよぎり、遥ちゃんの顔をまともに見ることが出来ない。雨宮の顔に至っては見たくもなかった。
「今から一緒の授業だよね。一緒に受けよっか。三人で」
「え、三人?」
「雨宮くんも一緒なんだよ」
まさか金曜も授業が被っていたとは。先週もその前も会った覚えが無い。どんだけ授業サボってんだこいつ…。
遥ちゃんを真ん中にして座る。座るや否や、遥ちゃんが口を開いた。
「泉くん…実はね、私たち、付き合ってるんだ」
「…えっ、そうなの?」
当然知っていたが、敢えて知らなかったふりをする。
「泉くんが私と雨宮くんが似てるって言ってくれた時から、ちょっと意識してて…。一昨日から付き合うことになったの」
あの時か…。やはり俺がきっかけだったようだ。
「…良いじゃん! 二人ともお似合いだよ」
また心にも無いことを言ってしまった。遥ちゃんに嫌われたくない、ただそれだけの理由で。もう遥ちゃんは雨宮と付き合っているのに。
遥ちゃんと付き合っている当の本人は、ずっと下を向いてスマホを弄っている。相変わらず態度が悪いやつだな。
そう思った矢先、机の上に置いてあった自分のスマホが鳴る。画面を見ると、雨宮からのメッセージが届いていた。こんな至近距離にいるのに何故…?
不思議に思い開いてみると、一つの写真ファイルが添付されていた。
そこに映っていたのは、遥ちゃんのハメ撮り写真だった。
「……っ!!」
ひどく動揺した俺は、咄嗟にスマホをカバンの奥へ押し込んだ。
…本人に見られてないよな…?
遥ちゃんの様子を伺うが、気付いている様子はない。
その隣で、雨宮が手で口を覆いながらクスクス笑っていた。
◆
あいつが何をしたいのか俺にはわからない。わかりたくもないが、遥ちゃんに迷惑をかけるようなことだけはさせたくない。
直接本人を叱責しようと思い立ち、その日の放課後、メッセージで空き教室に来るように連絡した。
「急に呼び出してどうしたの?」
「とぼけるな。言ったよな。遥ちゃんのデータは消せって」
「動画を消せとだけしか言ってなかったけど」
「屁理屈言うな! 動画だけじゃない! 写真も、隠し撮りしたやつ全部だ!」
「隠し撮りじゃなくてハメ撮りね」
口を開けば屁理屈ばかり。こいつ、自分が何をしでかしたのか分かってるのか?
「あと今日の授業前に送ってきた写真。あれどういうことだよ」
「あれも喜ぶと思って送っただけだよ」
「だから喜ばねえって。違うだろ。本当はそういう意図じゃないだろ。俺をからかって、遥ちゃんとの仲を掻き乱して楽しんでるんだろ?」
「僕がちょっかい出しただけで掻き乱されるんだったら、最初から大した仲じゃなかったんじゃない?」
「…また屁理屈言いやがって。遥ちゃんと付き合った理由も何かあるんだろ。好きな子に見立てていいからセックスしてくれなんて言うほど俺に執着してるのに、どうして遥ちゃんと付き合う必要があるんだよ?」
「…」
「言えない理由なのか?」
「…してくれたら教えるよ」
雨宮はコートのボタンを外し、ジーンズのチャックを下ろした。
「お願い、犯して」
「お前なあ…、この期に及んでまだこんなことするのか? しかもここ教室だぞ? 何考えてんだよ!」
「泉くんに呼び出された時からずっと興奮が治らなくって…。お願い、挿れて。ぐちゃぐちゃに犯して。昨日みたいに乱暴してよ。そしたら理由も教える、遥ちゃんのデータも全部消す。約束する」
「…もうお前とはそういう事はしたくない。でもデータは全部消せ」
「ヤってくれないと消さないから」
「…お前、脅してるつもりか?」
「良いじゃん、セックスしてって言ってるだけだよ、簡単でしょ。それだけでデータ全部消せるんだよ。今後ハメ撮りも絶対しないから!」
「…そんな事言ったってなあ…、出来るわけないだろ、こんな所で…! 誰かに見られたりしたらどうするんだよ!?」
「じゃ、じゃあキスして。お願い。キスだけなら良いでしょ?」
「う、それは…んぐっ!」
雨宮は俺を無理矢理壁へ押し付け、腕を強く押さえつけながら口付けをしてきた。
三秒、四秒、五秒…。いつもよりも長く、執拗にキスをする雨宮。何度も舌を出し入れし、口を離して息継ぎをしたかと思えば再度口付けをし、お互いの口の周りは唾液で塗れていた。
その時、ドアの開く音がした。
そこには狼狽した表情の遥ちゃんが立っていた。
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