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#2「何考えてるの」 ①
六月中旬。
先月までの波乱な日々から少し時間が経ち、大学にも慣れ始めてきた頃だった。
普通に授業を受け、普通に課題をこなし、来月の期末考査に向けての対策を取る。ごく普通の一般的な学校生活を送っていた。…一部分のあることを除いて。
「泉くん、おはよう」
いつも通り、雨宮悠が俺に話しかけてきた。
「おはよう…」
「眠そうだね。寝不足?」
「…」
誰のせいだと思ってるんだ。という言葉を飲み込んで、次の授業の支度をする。
あの日以来、ほぼ毎週雨宮とつるんでいる。授業が被っているときは一緒に受講し、昼食を一緒に摂り、そして放課後は…
「今日も来れる? 僕んち」
「…今日は終わったらすぐに帰るからな」
「構わないけど」
放課後は雨宮に気まぐれで呼び出され、雨宮の家に寄る。こいつの目的はただ一つ。只々満たしたいだけ。
「昨日はちゃんと帰れたみたいで安心したよ。終電間に合って良かったね」
他人事のように雨宮が言う。
「お前な…。言っておくけど、こっちだって課題やら何やら、やらなきゃいけないことがそれなりにあるんだぞ。お前ばっかりに時間割いてられないの」
「それならそれで断れば良いじゃん。内心、泉くんもヤりたいって思ってるんでしょ。スケベだから」
「うっせー…」
悔しいが反論できない。何故なら俺自身も満たしたいだけ。晴らしたいだけ。
「でも忙しいのは事実だろうし、程々にしておくよ。泉くんが程々で満足できるのかは知らないけどね。あはは」
「…随分他人事だけど、お前はやらないといけない事とか無いわけ? 授業にはちゃんと出るようになったんだから、課題内容も把握してるだろ。今週提出のレポートとか進んでるのか?」
「そんなんテキトーにやってればすぐ終わるって」
「只々出席すれば自動的に単位取れるわけじゃないぞ…」
「わかってるよ。本当お人好しだね。お人好しっていうかお節介というか…」
「うっせーなあ…。まあわかってるなら良いけど…」
「でも心配してくれてるからうるさく言ってくるんだよね。心配っていうか、僕が留年したら泉くん一人ぼっちになるからか。はは」
「いや別にそういうつもりで言ってるわけじゃないって…」
「はいはい」
そうこうしているうちに雨宮の部屋に着いた。学校から徒歩五分ほどの、すぐ近くのアパート。
部屋に入って施錠をするなり、雨宮が服を脱ぎ始めた。
「今日も暑かったねー」
「…なんでこんな暑い日でもそのコート着てるわけ?」
「気に入ってるから」
…それが理由?
「シャワー浴びる?」
「いや、いい…。急いでるから」
「綺麗にしないままヤるのが良いの? 泉くんがそんな趣味してたとはね」
「そんなんじゃねえって! お前がどうしてもって言うなら入るけど…」
「僕は別にどっちでも良い」
そう言って俺のベルトに手を掛ける雨宮。
「うわっ凄い蒸れてる」
躊躇なく咥える雨宮。シャワー浴びずにヤるのが良いのはお前の方だろう…。
俺のを咥えて勃てた後、雨宮は自分の穴をほぐすためローションを手に取る。俺はそれを見てるようで見ていない、上の空な状態。暑さで頭がのぼせて、やけに無気力だ。今日もいつも通り、雨宮のやりたいようにやらせるだけだと思っていたが…
「ねえ」
「えっ」
「何ぼーっとしてるの」
「いや、その…」
「僕のこと見て興奮してた?」
「…ごめん、見てなかった」
「なにそれ。セックスにも随分慣れたもんだね。僕しか相手にしてないからある意味まだ童貞だってのに…」
「別に慣れたわけじゃないけど…」
「それに、いつも僕ばっかりに色々やらせてるよね」
「お前がヤりたいって言うからだろ…」
「泉くんだってヤりたいくせに。…あ、そうだ」
なにかを思い立ち、ローションの容器を手に取る雨宮。
そして俺の左手を取り、手のひらにローションを絞り出した。
「おい! 何すんだよ!」
「泉くん…僕のお尻ほぐしてみてよ」
そう言って四つん這いになって、尻をこちらに向けた。
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