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#2「何考えてるの」 ②
「え…っ ほぐすって、どうやって…」
「いつもやってるの見てるからわかるでしょ。指入れて穴広げるの」
そこに挿入することはしても、手で触れたことはなかった。案の定抵抗感が湧く。
「いや無理だって…」
「普段チンコ挿れてんだから無理ってことはないでしょ」
「やり方わかんねーし…」
「教えるから。まずはローションを指に絡ませて。一本だけ挿れてみて」
仕方無く、指示されるがままに動く事にした。ズプズプと音を立てて、指が飲み込まれていく。
「もっと奥まで…」
指先に感じる直腸の感覚…。人差し指の第二関節まで入ったあたりで次の指示。
「指曲げてみて」
「こ、こうか?」
爪を立てぬよう気をつけながら指を曲げる。すると、何かコリコリしたものに触れるような感覚があった。
「そこ…っ、もっと刺激して…っ」
よくわからないまま指を動かし続ける。その度に雨宮が少し痙攣してみせる。
「泉くん…気持ち良い…あっ」
急に雨宮が体勢を変え、仰向けになる。
「今度は顔を見ながら…、イクとこ見ながらやって…」
さっきとは逆に、手のひらを上に向けた状態で指を挿れる。
「指増やしてみて…」
「大丈夫なのか…?」
「お願い…」
人差し指と中指を同時に二本挿れて、指を曲げて中を刺激する。
「あっあっ、すごいっ、いいっ、あっ」
雨宮の喘ぎ声に煽られ、指の動きを激しくする。中を掻き乱す音が部屋に響く。
「あっ、あっ、もっと、もっと激しくして」
思い切って指を広げてみた。随分とほぐれてきたようだ。
「ああっ、もっと、もっと広げて、あっ、イキそう、あっ」
雨宮が射精をした。一切性器には触れていないのに、穴だけでイったようだ。
「…セックスする前にイっちゃった…はは…」
雨宮が起き上がり、さっきまで尻の中に入れていた俺の指を舐め始めた。
「おい、何してんだよ!」
「へへ。ありがとう、泉くん」
満足そうに笑う雨宮。その様子を見ているといてもたってもいられなくなり、雨宮を再度四つん這いにさせる。
「えっちょっと、泉くん…」
余韻に浸る間も与えずに挿入する。
「ああっ!」
激しく腰を振り、奥まで思い切り突く。
「はっ、激し…すぎ…っ、うっ、あっ、泉くんっ」
左腕を雨宮の首へ回し、もう片方のローションで汚れた右手で雨宮の口元を覆う。雨宮に覆い被さるようにして腰を振り続けた。
先程の続きをするように、雨宮は俺の右手の指を舐め始めた。つい力が入り、指をそのまま雨宮の口へ突っ込む。
首は腕で締め付けられ、口に指を入れ抑えられ…。普通なら怒ってもいいくらいの事をされているにも関わらず、雨宮は文句の一つも言わずにされるがままだ。
そのまま雨宮の背中に覆いかぶさったまま、中で射精した。
「…中で出したの?」
「あっ…その…気付いたら…」
「怒ってるわけじゃないよ。ていうかいつもイクの早いよね」
からかうように笑う雨宮。
「気持ち良かった?」
「…」
ヤった後はいつもこう。している最中は無我夢中で一心不乱に欲望をぶつけ、終わると静まる興奮と、湧き上がる罪悪感。
いや、罪悪感というよりかは…、自分が何を思ってこんな事をしているのかわからないという、上手く言い表せない複雑な心境に陥る。
上の空になっていると、雨宮が抱きついてきてこう言った。
「今までで一番興奮した」
「…え? なんで?」
「なんでって? すごい良かったよ」
「いやだって…首に腕回して、無理矢理押さえつけるようにしてヤっちゃったから…。苦しくなかったのか…? 嫌じゃなかった?」
「え、あれわざとやってたんじゃなかったの?」
「わざとっていうか…、無意識だった…」
「無意識で人の口に指突っ込んだりするんだ。やっぱ君相当イイ趣味してんね」
「…ごめん」
「怒ってるわけじゃないってば。だって今日が初めてだったんだよ、泉くんが僕に前戯してくれたの。いつも僕に流されるままなのに。かと思えば僕を押さえつけたり、体勢を無理矢理変えたり…。流されやすいのか自分本位なのかわからなかったけど、今日は君の手で、僕を気持ちよくしてくれた」
「…お前の指示で動いただけだよ…」
「人の指示でお尻に指突っ込むんだ。断ったら悪いとでも思ってた? お人好しだなあ、やっぱり」
クスクスと雨宮が笑う。何故喜んでいるのかがわからない。
俺はいつも通り今日も雨宮の身体を貪っただけ。欲望のままに動いただけの身勝手な行為だったのに…。
「キスして」
雨宮が顔を近づける。いつもは雨宮の方から勝手にしてくるのに、今日はやけにねだってくる。
恐る恐る唇を重ねたが、いまいちやり方がわからなかった。
「へたくそ」
雨宮が舌を入れる。音を立てながら舌と舌を絡める。
「満足にキスも出来ないくせに、してる最中はやけに乱暴で粗々しいよね」
何も言い返せない。俺は…こんなに自分勝手な人間だったのか? 性欲を晴らす為なら相手のことを考えない、獣のように本能的に動くような人間だったのか。
先程の罪悪感が自分への嫌悪感へと豹変した。俺は元々こういう人間ではなかったはずだ…。
雨宮と関係を持ち始めてから、明らかに何かがおかしくなった。雨宮に狂わされたのか、それとも自分でも気付いていなかった本性が露わになったのか…。
「えらいぼーっとしてるね」
「…!」
雨宮の声で我に帰った。最近、気が付くと考え事をしてしまっている。
「帰んなくて大丈夫? 課題やら何やらあるんでしょ」
「え、あ、ああ、そうだな…」
もう満足したのか…。えらくあっさりと帰すんだな。
「こんな大げさに忙しそうにしてるのってさ、君だけだと思うよ」
「…え?」
「あんなレポート、終わらせようと思えばすぐに終わらせられるでしょ。君って案外要領悪いのかもね。あはは」
…帰り際に悪態をつかれた。
俺に尻を突かれてヨガってると思えば、小馬鹿にしたりからかったり…。本当に掴み所の無い奴だ。
◆
帰宅してシャワーを浴び、課題に取り掛かるため机に向かうが…、案の定集中できない。
(今日のが一番興奮した…)
(君って案外要領悪いのかも…)
雨宮の言葉を反芻する。課題をするためにノートPCを開くが、頭の中がこんがらがっており、集中する事ができない。
「…クソッ」
下着の中に手を入れ、自分のモノを扱き始めた。雨宮の言葉が、表情が、頭から離れない。
ひっそりと息を荒げながら射精した。手には自分の精液。雨宮の穴をほぐしている時の事を思い出した。
雨宮のことしか考えられない。散々振り回され、掻き乱され、憎悪と怒りを抱いた最低な人間と…殺したいと思うほど嫌悪したあいつと…俺は何故関係を続けている?
自分で自分がわからない。ただわかるのは、只々あいつの身体を貪りたい。欲求を思い切りぶつけたい。ただそれだけ。
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