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#2「何考えてるの」 ③
七月になった。今月を乗り切れば、来月から夏休みに突入する。
大学生活初の夏休みだ。…とは言っても大した予定は今のところ決まっていない。
遥ちゃんと海に行く約束も、当たり前だが自然消滅しただろうし…。短期アルバイトでも始めてみようか。
と、その前に、履修科目の期末試験・期末課題等をこなさなければならない。いつも通り授業に出席して講義を受けていたその時、手元に置いてあったスマホにメッセージが届いた。マナーモードにしてはいるものの、画面に通知が表示されたのでついつい目をやると…
驚愕した。
雨宮からの写真付きのメッセージだったのだが、ただの写真ではなかった。通知欄に表示されていたサムネイルは、全裸で自撮りをした雨宮の写真だった。
(あいつ…!! マジでふざけんなよ…!)
明らかに人に見られるとまずい写真だったので、慌ててスマホを鞄の中に入れた。
触ってはいなかったものの、授業中にスマホを机に置いていた俺にも落ち度はあるが、敢えて講義の真っ最中を狙って送信してきた雨宮には憤りを感じる。というかこの前も同じことして俺を怒らせただろ…。どこまでも悪質なやつだ。
◆
授業が終わり、昼休みに入った。
先程のことで動揺して授業にあまり集中できなかった俺は、雨宮に返信で叱責しようとトイレの個室に入り、スマホを開いた。
すると、先程の写真の他にも何通か写真が送られてきていた。一糸纏わぬ雨宮が全身鏡にカメラを向け、己の裸体を撮っている写真、性器を一切隠す事なく撮影した写真などが複数枚送られてきていた。
全く目的がわからない。嫌がらせにしてはあまりにも赤裸々過ぎる。とんだド変態だな…。
…そんな変態が送ってきたエロい自撮りを一枚一枚見ている俺も大概だ。悔しいが、不覚にもいやらしい気分にさせられていた。
一番最後に、動画が送信されていた。自分の性器を掴んだ様子がサムネイルの時点で伺える。再生するまでもなく内容が想像つくような動画だ。念のためイヤホンをつけて動画を再生した。
「はあ、はあ、泉くん、んっ」
俺の名前を呼びながら、一心不乱にオナニーをする雨宮が画面に映し出された。サムネイルの時点ではわからなかったが、なんとそこには自分の性器を扱いてるだけではなく、床に垂直に設置された黒色のディルドをアナルに挿入している様子が写し出されていた。
性器を刺激しながら、腰を上下に動かす雨宮の姿。あまりの淫らさに動揺を隠せない。喘ぎと吐息が入り混じった声がイヤホンから絶えず流れており、視覚と聴覚からの刺激で、不覚にも一層興奮してしまう自分がいる…。
「気持ちいいよお、泉くん…っ、あっ」
その声と同時にカメラ側に身を乗り出す。勢いよく飛び出した精液がスマホにかかり、カメラのレンズが白濁液で覆われた。
「うわっ、スマホにぶっかけてやがる…。何してんだよこの馬鹿…」
呆れていると、精液の汚れの隙間から雨宮がディルドを引き抜く様子が見えた。赤く腫れたアナルがひくひくと痙攣している。その様子が更に俺の性欲を刺激した。
息切れした雨宮が付着した精液を指で拭いながら、自らの顔を写した。
「今日放課後ヤろうよ」
雨宮はそう言って笑みを浮かべ、動画の録画を停止した。
急に画面の向こうから話しかけられ、えらく動揺した。こんな誘い方があるか?
…とはいえ、動画を見ていた俺は不本意ながら勃起していた。講義中にこんなものを送られてきて動揺させられた挙句、性欲まで刺激され、複雑な心境だ。
「どうしてくれんだよコレ…マジでふざけんなよ…」
◆
放課後、校門の側で佇む雨宮を見かけ、俺はとっさに駆け寄る。
「あっ、泉くん〜」
ヘラヘラと手を振る雨宮。
「泉くん〜じゃねえよ馬鹿! なんだよあの写真!」
「どうだった? 気に入ってくれた? 僕の自撮り」
「気に入るわけねえだろこのド変態が。講義中にあんなもん送ってくるなよ! 前も怒っただろ!」
「怒ってる割には授業終わってすぐに既読付いてたよ。本当は通知来た時点で見たくて堪らなかったんじゃないの?」
「うるっせえなあ…。もう講義中にメッセージ送ってくるのはやめろ」
「講義中じゃなかったらエロい自撮り送っても良いの? 泉くんがどうしてもって言うなら毎日送ってあげる」
「要らねーよ馬鹿…」
「で、何か用? 注意しに来ただけ?」
「は? …いや、お前から誘ったんだろ? 言わせんなよ」
「動画も最後まで見てくれたの? すっごい嬉しい。でも見たんなら既読スルーじゃなくてちゃんと返信してよ。…動画見終わってから頭ん中ヤることばっかでずっとソワソワしてたんじゃない?」
「そっ、それはお前の方だろ…! うるせーよ…」
「相変わらずスケベだよねえ」
くっくっと小さく笑い、自宅の方向へと歩き始めた雨宮の後を追いかけるように俺も歩き出す。
あくまでも雨宮の都合の良いように扱われ、仕方無く付き合ってやっているスタンスでいるが、ヤりたくて仕方ないんだろうと言われて真っ当に否定する事が出来ないのも事実だ。
セックスが好きな雨宮と、同じようにセックスにハマっている俺。どちらも互いを利用していると言える。
こんな俺達の関係性は一体何なのかと、ふと考える時がある。
つい最近まで男女間のいざこざで複雑な関係に陥っていた俺等だが、最近ではこうして週に数回、雨宮の家でセックスをするのが当たり前になりつつある。
誘ってくるのは専ら雨宮からで俺から言い出すことは無いが、内心誘いが来ないか期待してしまっているのも事実だ。それが悔しいような腑に落ちないような、言葉では言い表すことのできない感情が渦巻く関係性だ。
…卒業までずっとこんな事が続くのだろうか…
「何考えてるの?」
雨宮の声でハッと我に帰った。
「いや、別に…何も…」
「エロいこと考えてた? 今日はどんな事しようかな〜って…」
「あーもう! だからそれはお前の方だろって!」
「なんで怒るの? 図星だから?」
「うっせえなもう…黙れよ…」
雨宮がクスクスと笑う。雨宮はこんな関係性に疑問を抱いてたりはしないのだろうか?
それとも誘えばすぐにヤれる俺との関係が楽で、現状満足している節があるのだろうか…。
なら俺もその現状を良しとすればいいのに、この違和感は何だろう。
このままではいけない。そんな漠然とした危機感が常に張り巡っているのだった。
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