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#3「あのこと」 ④

 七月三十一日。七月の最終日に、日本列島を巨大な台風が襲った。  さっきから停電が起こったり直ったりを繰り返しているし、荒れ狂う強風の音がやけに耳障りだ。気圧の変化もあってか、微かに頭が痛い。  時刻は午後九時前。暴風域を抜けるのは、日付が変わった深夜頃だと予報では言っていた。  布団の中でスマホをいじっていると、突如着信が入ってきた。画面に表示される雨宮の文字。  あいつからの電話かぁ…何だか面倒事になる予感がする。このまま切ってしまおうか。だがそんな事をしても掛け直してくるだけだと感じ、仕方無く電話に出ることにした。 「…もしもし?」 「あ、泉くん。今何してたの?」 「何って、特に何も…」 「え、オナニー?」 「んな事言ってない」 「言ってくれれば抜くの手伝いに行ってあげたのに」 「だから言ってないっつの!」  雨宮がケラケラ笑う声が電話越しに聞こえてきた。 「ていうか行ってあげるも何も、今日は外出れないだろ」 「え、なんで?」 「いやだから台風来てんじゃん。気付いてないわけないだろ?」 「台風…うん。来てるねえ」 「つか何の用で電話してんの?」 「あ、そうそう。今から泉くんち行っちゃおうって思ってさ」 「…は?」 「今向かってるから。それじゃまた後で」 「は!? いや、お前どうやって…」  電話が切れた。あいつ…こんな嵐の中、人の家に出向こうとしてるぞ。非常識もいいとこだ。  しばらくするとチャイムが鳴った。本当に来る奴があるか。 「お邪魔しまーす」 「…お前…びしょ濡れじゃねえか…」 「えへへ…。お風呂貸して」 「ここまで歩いて来たの?」 「いや、タクシーで来た」  …こんな日でも仕事しないといけないなんて、タクシーの運転手さんも大変だな。 「さっきの電話もタクシーから掛けてたのか?」 「うん」 「…人前であんな話すんな」         ◆  雨宮が風呂から上がってきた。  衣類などが入った大きな荷物を持って来ていたが、案の定全部ずぶ濡れだ。こいつ何しに来たんだ? 「なんで急に俺んとこ来たのよ?」 「…へへ、泉くん…、それがね…」  ヘラヘラした態度の雨宮。何がそんなにおかしいんだ。 「…実は、住んでたアパート、追い出されちゃった」 「…はああ!?」  斜め上の返事が返って来て、思わず動揺が隠せない。 「前々から人を連れ込んでたのをさあ…、うるさいからやめろって大家さんから注意受けてたんだけど…。今、援交もしてないからあんまお金無くて、家賃滞納してたら追い出された」  …擁護のしようが無い。自業自得だ。 「…だから俺んとこ来たの?」 「うん。ごめんね泉くん」  雨宮が照れ臭そうに笑う。 「…いや住まわせないよ?」 「ええ! なんでえ!」 「なんでじゃねえよ! ダメに決まってるだろ!」 「お願い泉くん。ほんとに。マジで困ってんの。さっきタクシーでお金使っちゃったからご飯代も無いし。今月分の仕送りも使い切っちゃったし、このままじゃ僕飢え死んじゃうよ」 「勝手に死んでろ」 「ねえ本当にひどい。セックスする相手いなくなってもいいの?」 「どんな揺り方だよ…」  …とは言っても、こんな奴でも放っておけないのが俺の性。こんなん、偽善者だと言われても仕方無いな。 「…バイト見つけろ。エンコーじゃ無いやつ。この夏休み中に見つけて家に金入れろ。そうしたらしばらくは泊めてやるよ…」 「え! ほんとに!? 泉くん大好き! ありがとう!」  雨宮が俺に抱きつく。マジで調子のいい奴だな。 「ふふ…」  抱きついたままの雨宮が俺の身体を押して動かし、そのままベッドへ倒れ込ませた。 「…何笑ってんだよ」 「へへ…。だってさ、これから毎日、泉くんとセックスできるって考えたらさ…、 もう堪んなくて」  そう言いながら、俺のズボンを下ろしてきた。 「おい、勝手な事すんなって」  下着の上から手で性器を撫でつける。 「これから毎日、僕の事好きに使って良いよ。いつでもどんな時でも、泉くんの性欲処理のお手伝いしてあげるからさ」  下着の穴に指を通し、亀頭を擦る。 「あ、もちろん家の手伝いもするからね」 「そうじゃなくて! 勝手に触るな!」 「えー、でも硬くなってるよ」  下着をずらして、亀頭を咥える雨宮。窓を打つ雨風の音とフェラの音が混ざり、耳に纏わりつく。 「泉くん、シャワーまだでしょ」 「…風呂入る前にお前から電話が来たんだよ」 「ちょっと臭うなあ」 「うるせえなあ、じゃあやめろよ!」 「泉くんのニオイ嗅いでたら、すごく興奮してきちゃった…。ねえ、僕のも触って」  そう言って雨宮は横たわってる俺の上にまたがり、尻を顔の方に向けてきた。所謂シックスナインの体勢だ。雨宮はそのままフェラを続ける。俺は雨宮のズボンを少しずり下げ、性器を指で刺激する。 「もっと、強くしていいよ」  握る手の力を徐々に加えてみる。 「泉くんも普段オナニーするでしょ? いつもしてる感じでやってみてよ」  亀頭にはうっすら我慢汁が滲み出ている。それを絞り出すかの様に、思い切り力を加えて手を上下させてみた。 「んっ、んうっ、んんっ」  咥えたままの状態で雨宮が喘ぎ声を上げる。尿道に指を這わせ、刺激してみる。我慢汁でヌルヌルになっている亀頭を、思い切り力を込めて握り締めた。 「あっ、ああっ、はあっ、んうっ」  喘ぎ声が次第に大きくなり、口の動きが疎かになる雨宮。ふと尻の方に目を向けると、肛門が少しだけ濡れているのがわかった。恐らくあらかじめ風呂場でならしてきたのだろう。 「雨宮、挿れるよ」  雨宮の身体を支えながら仰向けにさせ、脚を広げてアナルにゆっくりと挿入した。 「はあ…はあ…んん…っ」 「雨宮、隣の部屋に聞こえるとまずいから、静かにな…」  いつもだと雑目に、乱暴に動いているのを、騒音が原因で注意を受けていたという雨宮の話を聞いた後だと少し抑え気味にするしかない。なるべく大きい音を立てぬよう、細心の注意を払いながら腰を振る。 「んっ、んうっ、ふっ…」  雨宮は声を押し殺す為、手を口に当てている。視線は俺の顔の方を向いている。  そんな雨宮に覆い被さるように、頭を下げた状態で動き続けてみた。それに応えるかのように、雨宮が俺の背中に腕を回す。 「はあ、はあ、はあ…っ」  雨宮の生温い吐息が耳をくすぐる。 「泉くん…っ、はあ、キス、キスして」  悩ましげな声で雨宮がキスをねだる。そっと唇を重ね、舌先を入れてみる。舌と舌が絡みつく音が耳に纏わりつく。 「んーっ、んんんっ、んうっ」  口を塞がれた状態で雨宮が喘ぐ。雨宮と唇を重ねたまま、雨宮の中でイってしまった。  身体を起こすと、雨宮の脚が少しだけ震えているのが見えた。         ◆ 「泉くん、今日なんだかすごく優しかったね」  中に出された精液をティッシュで拭いながら、雨宮が呟いた。 「そ、そうか?」 「うん。いつもはなんかイライラした感じで乱暴に抱いてくれてるけど、今日はすごく丁寧だった」 「…丁寧だと物足りなかったか?」 「うーん…激しいのが好きだからちょっと物足りないけど、優しい泉くんも大好き」  そう言って雨宮が俺の腰に抱きついてきた。 「ありがとう、泉くん」  その後一緒にシャワーを浴び、床についた。  時刻は零時を回っており、先程までガタガタと窓を震わせていた暴風も静まりかえっている事に気が付いた。 「台風、過ぎたみたいだね」  静けさが漂う暗闇の中で、雨宮がそう囁いた。  俺の腕を抱きながら寝ている雨宮の体温を感じながら、一人暮らしの生活から一転し、雨宮との共同生活が始まったのを実感した。 

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