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#5「都合のいい二人」 ①
八月下旬。短期バイトをやり終えた俺は、完全にやることがなくなっていた。
そして雨宮も、あれ以来援交相手に会いに行くことをせず、ずっと家の中で過ごしていた。
特に予定も無いが、ずっと家の中にいるのも息苦しさを感じてしまう。気分転換に買い出しに行くことにした。
「雨宮、コンビニ行くけど、欲しいものあるか?」
「うーん、特にないかなあ」
「食い物とかもいいのか? 腹減ってないの?」
「うーんと、じゃあ、任せるよ。いってらっしゃい」
あの日から、雨宮はいつもあんな調子だ。得意な憎まれ口を叩くこともなく、明らかに元気が無い。あんな奴でも、様子がおかしいとついつい気を遣ってしまう。
コンビニで適当にご飯や飲み物を購入し、家へと帰る。
ドアを開けると、何やら慌てた様子の雨宮の姿が目に入ってきた。
「あ…おかえりなさい。は、早かったね…」
ベッドの上に座った状態で、足に毛布を被せている。
「…何してたの?」
「あはは、えーと、えへへ…」
よく見ると、毛布の隙間から何も履いていない下半身が覗いていた。
「…泉くんがいない間に、抜いとこうかなーと思って…」
ばつが悪そうな顔で雨宮が答える。
「ああ、そう…。…なんでそんな申し訳なさそうなんだよ」
「…だって、最近泉くんとそういう雰囲気にならないから、ちょっと溜まってて…。 でもこんなことしてるの、泉くん見たくないんじゃないかと思って…」
謎の気遣いをしてみせる雨宮。
「…別に、気にせずやればいいだろ」
「…もういい、終わる…」
「いいって。続けろよ。まだイってないんだろ、多分…」
「ええ、だって…」
「…言われないとわかんない? 俺の前でやってみろって言ってんの」
「え、ええっ!?」
「なんでコソコソ隠れてやるんだよ。今まで身体の要求ばっかしてきただろ、お前。今更そんな恥ずかしがることないだろ」
「…」
「ほら、してみろよ。こういう辱めみたいなの好きだろ、お前…」
「…久しぶりにドSな泉くんが出て来て困惑してる」
「いいから早くやれって」
ベッドの上に座っている雨宮を、頬杖をつきながら眺める。布団を退けた雨宮が、ゆっくり自分のもモノを扱き始めた。
「オナニーしてるとこ、もしかしたら見るの初めてかもな」
顔を赤らめる雨宮。なんだこいつ、いつもと違ってえらくしおらしいな。
小さく乱れる息の音。扱きながら、雨宮が俺の方に目線を向けた。
「…何考えてるの?」
「…え、え?」
急に話しかけられて、少し驚いた様子の雨宮。
「何考えながらしてるのかなって」
「えっと、それは、泉くんとしてるところ、かな…」
「ふーん…」
どこか少しやりづらそうな雨宮。そんな姿を見ていると、余計にいじめてやりたくなってくる。
「どんな想像してるのか、言いながらやってみてよ」
「えっ!? なんで…?」
「知りたいから」
「なんでそんな…恥ずかしいって…」
「じゃないと買ってきたご飯あげない」
「えーっ、…う、うう…」
雨宮の顔がますます赤くなっていく。
「…えっと…、い、泉くんが、僕の頭を鷲掴みにして、口にちんこ突っ込んできて…、苦しそうにしてる僕のことをお構いなしに腰を動かしてて…それで…」
想像の中でも乱暴されてるんだな…。
「四つん這いになってる僕のお尻に突っ込んで、思いっきり腰振ってて…僕の脇腹をすごい強い力でぎゅーって掴んできたり、僕のお尻とかバシバシ叩いてくる」
「なんで俺そんなにバイオレンスなの?」
「んで、イキそうになると…僕の顔にたくさん射精して、なんか…手で顔をぐちゃぐちゃーってしてくる」
「なんで想像の中の俺そんなめちゃくちゃなことしてんの?」
「もうっ、泉くんうるさい!」
雨宮が恥ずかしそうに怒り出した。思わず笑いが込み上げ、手で口を塞ぐ。
なんだこいつ、からかうとこんなに面白い反応するのか。
「んで、その後はどうなんの?」
「そのあとは…、優しく、キスしてくれる…」
「俺そんなDV男みたいなことしねえよ」
「…うーん、どうだろうね…」
雨宮が話すことを止め、どんどん息があがってくる。
「うっ、ううっ」
身体を震わせながら射精する雨宮。溢れ出る精液を自らの手で受け止め、ティッシュで拭き取った。
「気持ちよかった?」
「…泉くんがあれこれ言ってくるから、集中できなかったよ!」
「何でそんな怒ってるんだよ。お前こういう意地悪されるの好きじゃなかった?」
「Sっぽいのは好きだけどぉ…、なんか、恥ずかしいよ…」
事は終わったが、雨宮はベッドの上から動こうとしない。
「? どうした?」
「僕にはさせて自分は見てるだけとかずるい。泉くんも僕の前でオナニーしてよ」
「はあ? 別に俺抜きたい気分じゃないんだけど…」
「嘘つき。僕がしてるの見て興奮してたでしょ」
そう言って俺の股間を指差す雨宮。若干ズボンが盛り上がっているのを目ざとく指摘してきた。
「…今回だけな」
ズボンと下着を脱ぎ、ベッドに上がる。雨宮もベッドの上に座ったままで、向かい合わせの状態になる。あぐらをかいて、自分のものを扱く。
目の前には、ニヤついた顔をしつつ興味津々な様子でこちらを見ている雨宮。
「泉くんは何考えながらしてるの?」
「…なーんにも」
「えー。そんなことないでしょ。僕のことオカズにしたりしないの?」
「しない」
「はあー?」
「お前な、俺を陵辱し返そうったって無駄だぞ。黙って見てろ」
無言のままオナニーを続ける。そういえば俺も自分で抜くのは久しぶりな気がする。
「…泉くん、めっちゃかわいい…」
感じている俺の姿を見ながら、雨宮が呟く。もう少しでイキそうだ…。
「おい、顔こっち向けろ」
「え?」
雨宮の顔の前に半立ちになり、そのまま顔面に射精した。反射で半目になる雨宮。結構溜まっていたのか、思っていたよりも多めの精液が雨宮の顔を白く汚した。
「わわっ、ちょっと…」
「……」
雨宮の頬に手を添え、白濁液まみれになった顔をじっと見つめた。女子のような綺麗な顔を精液で汚したのは若干の背徳感がある。
「泉くん、どうしたの…?」
しばらく無言が続いたあと…、そばに置いてあったティッシュで雨宮の顔を拭いてあげた。
「あ、ぐちゃぐちゃってしないんだ」
「するわけないだろ」
雨宮がケラケラと笑う。笑った顔を見たのは久しぶりな気がした。いつもの雨宮の調子に戻り、少し安堵した。…こんなことで元気を出すのはどうかと思うが。
「キスして」
そう言って雨宮が目を瞑る。雨宮の唇に唇を重ねる。いつもより少しだけ長めにキスをした。
「…お前めっちゃ精液の臭いする」
「泉くんがぶっかけたからじゃん…」
そのあと軽くシャワーを浴び、二人で一緒に遅めの昼食を摂った。
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