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#6「誠意?」 ①

 九月中旬。  今日は履修登録をしていた集中講義の初日なので、久しぶりに早起きをして登校し、大学で講義を受けている。集中講義は三日間という短い期間でしか行われないが、朝から夕方まで丸一日講義が続く。  放課後になり、久々の授業で疲労困憊した俺は、寄り道せず真っ直ぐ帰宅した。 「おかえり〜」  部屋へ上がると、ベッドの上で寝転びながらスマホをいじっていた雨宮が、上半身を上げてこちらに視線を向けた。 「…お前は集中講義何も取らなかったの?」 「うん。別に取っても取らなくてもいいやつでしょ?」 「うーん、まあそうだけど…」 「明日もあんの?」 「うん。明後日まで」 「そーなんだ、じゃあ明後日まで浩樹くん家に居ないのかあ。つまんないの」  そう言って再度ベッドの上に寝転び、スマホを見始めた。いつもよりも少しだけ素っ気ない雨宮の態度に、どこか違和感を覚えた。 「…今日は何かした?」 「…んや、特に何も」  俺の問い掛けに、雨宮はスマホをいじりながら答える。 「さっきから誰と連絡取ってるの?」 「え、連絡なんかしてないよ。調べ物してただけ」 「本当か? また誰かと会う約束とかしてないだろうな?」  雨宮の肩が少しだけ動いた。そしてゆっくり首を動かし、顔だけをこちらに向けた。 「…してないよ? なんでそんなこと聞くの?」 「じゃあ、その画面見せてみろ。何見てんだ?」 「えっ…」 「なんだよ、見せられないのか?」 「別に変なもの見てないよ…。浩樹くんどうしちゃったの?」  少し困惑してはいるが比較的落ち着いている様子を見るに、雨宮が嘘をついているようには見えなかったが、何故か疑り深くなってしまう。 「…じゃあいいよ」  不思議そうな顔をした雨宮をよそに、風呂に入る準備を始めた。明日も朝から講義がある。シャワーを浴び、軽く夕飯を済ませて早めに寝ることにした。  雨宮が隣で布団に隠れるようにしてずっとスマホをいじっている。スマホの微かな光が気になったが、特に咎めることはせずそのまま眠ることにした。         ◆  集中講義二日目。  しっかりと睡眠をとったはずが、やはり数時間座学の講義を受けているとどうしても眠くなってくる。  眠気と戦いながら講義を受けていると、ふと、雨宮の顔が突然思い浮かんだ。今日の朝も俺が学校に行く準備をしているうちも、雨宮は眠り続けていた。昨日の夜も、俺が学校から帰ってきてもしつこく絡んでくるような事をしなかった。  いつもなら一人にすると寂しかった暇だったと言って甘えてきたり、夜は決まって身体の要求をしてくるような奴なのに…。昨日のように少し素っ気ない態度を取られると、逆に気がかりになってくる。  雨宮のことを一度考えると、簡単には頭から離れなくなる。雨宮の些細な発言を気にしてしまったり、様子がいつもと違うと、何かしでかすのではないかと勘繰ってしまう。  ここ最近は俺をわざと怒らせるような事をしてこないとはいえ、夜はほぼ毎日雨宮の相手をしているせいか、少しばかり疲労が溜まっている。その影響か、こういう風に思考が良くない方向へ向かう事が増えてきたように思えた。  その上夏休みということもあり、生活リズムが乱れていたり、食事も適当だったりしたせいで、自律神経が少し乱れているのかもしれない…。この集中講義が終わったら、身体を休めることに専念しようと考えた。  二日目の授業を終え、昨日と同じくどこにも寄らずに家に帰った。  家のドアを開けると電気は付いておらず、雨宮の姿は無かった。時刻は午後六時過ぎ。あいつ、今日はどこかに行くとかそういう話は一切していなかったぞ。    シャワーを済ませると、時刻は午後六時半。雨宮はまだ帰ってきていなかった。スマホにも通知は来ていない。  …何故か胸騒ぎがする。先月も似たような事があり喧嘩したばかりだ。良くない思考が頭を巡る。  …まさかまた、俺に内緒で援交相手に会ったりしてないよな…?  突如、玄関のドアが開く音がした。 「ただいまー」  雨宮の声がした。その瞬間、少しだけ張っていた気が抜けた気がした。 「ご飯買ってきたよ。浩樹くんも食べるでしょ?」 「……」 「あれ、いらない?」 「…いや、食べる。ありがとな」  …少し呆気に取られていた。援交相手に会っていたわけではなく、ただ単に買い出しに行っていた雨宮に対してではなく、たった少しの時間帰ってこなかっただけで邪推してしまった俺の余裕の無さに対して。  …本当に体調を崩しているのかもしれない。こんな些細な事で余裕が無くなるなんて。  雨宮が買ってきてくれた弁当を食べ終えると、明日の最終講義に備えて、昨日と同様早めに床に着いた。

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