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#6「誠意?」 ④

 十月一日。今日からまた大学生活が始まる。  昨夜はセックスを終えた後、裸のまま眠ってしまっていた。軽くシャワーを浴び、着替えて準備をする。  悠も目を覚まし、シャワーを浴びにいった。  風呂から出てきた悠は、自分で買った半袖のTシャツを着ていた。少しくすんだような色をした青のTシャツだ。いつも着ているのは黒地の服なので何故青なのかと尋ねると、俺が青系の色の服を貸してくれていたから気に入ったのだと答えていた。  家に出る直前。悠はまたいつものようにコートを羽織るのだろうと思っていたら、コートには触らず、そのままカバンを持って玄関へと向かった。 「えっ、コート着ないの?」 「…うん。着ずに出てみよう、と思う」 「…大丈夫なのか? その、袖から少し、傷見えてるし」  袖からわずかに自傷痕が覗いている。若干袖の影に隠れているようにも見えるが、少しの動作で認識できてしまう。 「…まあ、大丈夫でしょ。誰も僕のことなんか見てないよ、って思うことにする」  前期と同じく、一限目に余裕を持って間に合う時間帯に家を出た。前期と違うのは、悠と肩を並べて登校している事だ。 「そういえば、お前は今日の一限は何とったの?」  そう尋ねると、悠は自身の履修の情報が印刷された紙を見せてきた。すると、月曜から金曜までの全ての履修が、俺がとった履修と全く同じだった。 「…え、俺の履修と全部一緒なんだけど?」 「へへ、浩樹くんと一緒に授業受けたくて。全部真似した」  履修登録を済ませた後、自分用に控えとしてその情報を紙に印刷しておく必要がある。おそらく、俺の履修情報を見た後に悠も履修登録をしたのだろう。人の学生証を勝手に見たり、履修も全て確認したりするなんて…。まあ、それによって悪いことは今の所起きていないから良いのだが。  大学に着き教室へ入ると、時刻はまだ開始時間の二十分前だった。  トイレに行ってくる、と言って悠は教室を出ていった。  暇を持て余し、スマホをいじっている俺に誰かが近づく気配を感じた。顔を上げると、そこには遥ちゃんが立っていた。 「泉くん、おはよう!」 「は、遥ちゃん…! お、おはよう…!」  久々に会った遥ちゃんは、少し髪が伸びている事以外は特に変わった様子は見受けられず、少し懐かしさを感じた。 「また授業同じだね。後期もよろしくね」 「う、うん。こちらこそ」  遥ちゃんと会うのは、夏休み前に対面して謝った時以来だ。もうこの先会話はできないと勝手に思い込んでいたから、予想だにしない出来事に驚きと嬉しさを隠せない。 「あのね、さっき廊下で雨宮くんに会ったよ」 「え? ゆ…雨宮に?」  まさか遥ちゃんから悠の名前が出てくるとは思ってもいなかった。 「びっくりした! 金髪になってたね! 教室から金髪の人が出てきたから誰かなって思ってたらまさかの雨宮くんで。あまりにびっくりしたからじっと見てたら、目があっちゃって、慌てて通り過ぎたんだけど…。雨宮くんに呼び止められて、…あの時のこと、謝ってくれたの」  …あいつが自ら謝罪? 本当に? 「…もう流石に関わることはないかなって思ってたからびっくりしたけど、なんだかホッとしちゃった。毎日着てたコートも着てなかったし、金髪にしてたのもあって、なんだか別人みたいだったなぁ。夏休み中に何かあったのかな?」 「…」 「あ、友達来たからもう行くね。またね」  そう言って遥ちゃんは女友達の元へ駆け寄り、俺から少し離れた席へ座った。  その数分後、悠が教室へと戻ってきた。俺の隣へ座り、鞄から教科書を取り出す。  どうして急に遥ちゃんに謝る気になったんだ? とか、どう言って謝ったんだ? とか、聞きたい事は色々あったが…。こいつは今、自分自身を変えようとしている最中なのかもしれない。そう感じ、余計な詮索はしない事にした。  謝ったからといって過去の過ちを取り消せるわけではないが、こいつなりにけじめをつけようとした結果なのだろう。  悠の顔をじっと見つめていると、こちらに気が付いた。 「…どうかした?」 「……頬に睫毛がついてる」  適当に嘘をつき、悠の顔に手を添えるようにして、親指で軽く頬を撫でた。  悠が嬉しそうにはにかんだ。

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