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#7「友達だから」 ⑤
大学の最寄り駅までの道のりを遥ちゃんと歩く。こうして遥ちゃんと隣り合っていると、一緒に授業を受けていた時のことが思い出されて懐かしく感じた。だが、先程あった一連の出来事のせいで、少しだけ気まずくもある。
「…泉くん、さっき雨宮くんのこと、追いかけなくてよかったの?」
「…え、なんで?」
「…助けてくれはくれたけど、なんか、ちょっと怒ってるように見えたから…」
確かに助けてくれたのは事実だが、悠の無愛想な態度が少し怖く見えたのだろう。
「うーん、あいつなら大丈夫だよ。いいよ気にしなくて」
「…そ、そう?」
横断歩道に差し掛かり、赤信号で歩みを止める。
「信用してるんだね、雨宮くんのこと」
「…え?」
予想だにしない遥ちゃんの発言。俺が悠のことを信用している…?
「…なんでそう思ったの?」
「んー、雨宮くんの事をどうでもいいと思ってるから気にしなくていいって言ってるんじゃなくて、よく理解してるからそう言ったのかなって思ったから。上手く言えないけど」
本当に悠の事を信用できているのか、自分ではいまいちよくわからない。だがもしかすると、心のどこかでは悠のことを信用しようとしているのかもしれない。
程なくして、最寄駅に到着した。遥ちゃんと一緒に帰れるのもここまでだ。
「泉くん、今日は本当にありがとうね」
「いやいや、俺なんか何もできなかったから…」
「そんなことないよ。本当に感謝してる。…泉くんが友達で、本当に良かった」
「…!」
「じゃあ、また明日ね!」
そう言って手を振った後、改札を通過する遥ちゃんの後ろ姿を見送った。
もう友達ではないただの他人だと、自分の中で勝手に思い込んでいたのが馬鹿みたいだ。遥ちゃんを見て思い出すのはいつだってあの時の失態だが、遥ちゃんに友達だと言ってもらえて、少しだけ過去のしがらみから救われた気分になった。
「ただいま」
「……」
家に帰ると、分かり易いほど機嫌を損ねた顔をした悠が、ベッドの上で壁にもたれ掛かりながら座っていた。
「なんだよ、怒ってんの?」
「…別にぃ」
「別にじゃねえだろ、言いたいことあるなら言えよ」
「浩樹くんに言われたくない。僕にコソコソ隠れて遥ちゃんに会ってさぁ」
「変な言い方するなよ。お前も見てただろ、あの男に粘着されてたのが俺の杞憂じゃなくて事実だったんだよ。それに、お前だって結果的に遥ちゃんの手助けしただろ」
「…だってさ、ハッキリとものを言わないから変な輩につけ込まれるんだよ。遥ちゃんにだって問題があるって教えてあげただけ」
「…うーん、被害受けてた人をそういう風に言うのは良く思わないけど、お前が人を助けるのなんて初めて見たから、それには感心したよ」
「……」
どうやらまだ不服に感じている様子で、はぁ、と溜息をついた。
「…なんでわかんないのかなぁ、そういう話がしたいわけじゃないの。僕に隠れて遥ちゃんの相談に乗ってたことが気に食わないって話。見え見えの嘘までついて、僕のこと先に帰したりしたのが腹立つの」
…なんだ、そんなことで怒っていたのか。
「だってどうせ、お人好しとかお節介だとかうるさく言うだろうと思ってさ」
「それは言うよ、実際そうだし。…でもそれより、隠れてコソコソされる方が嫌だ」
「お前にやましい事があるから隠してたわけじゃないよ」
「嘘だ…。どうしても信じられないよ…」
やはりなんと言おうと、遥ちゃんの事を気に掛けていた俺に対しての不信感が拭えないようだ。
「頼むから信用してくれ。やましい事なんか何も無い。だって遥ちゃんは…」
先程の駅での会話が頭をよぎった。
「…友達だから。そうだろ?」
「………」
どう思ったのかはわからないが、悠がそれ以上苦言を呈する事はなかった。
俺は…いや、俺達は、同じ学科の友人を厄介事から庇った。友人として当然の事をしたまで。ただそれだけだ。
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