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#8「どこまでもお人好し」 ③

 風呂から出て、バスローブを羽織る。悠はドライヤーで髪を乾かしている。俺はベッドに腰掛け、適当に髪をタオルで乾かす。  ドライヤーを終えた悠が隣に座った。手には買ったばかりのローターを握っている。ローター本体と、それを操縦するリモコンの二つを俺に差し出してきた。 「これで好きに攻めてほしい」  ローターの電源を入れると、音を立てて振動し始めた。悠を押し倒し、バスローブを開く。  左の乳首にローターを押し当てたと同時に、悠の身体が小さく跳ねる。 「ふふ…、ローター買ってる時の浩樹くん、めちゃくちゃ可愛かったなぁ」  ローターを押し当てられながら、悠が先程の出来事を蒸し返す。ローターを徐々に下の方へずらしていく。 「なんかさ、わざと女の人がいたレジを避けて並んでなかった? 浩樹くんそういうのめっちゃ気にしそうだもんね」  当然、図星だった。言わなくてもいいような事をわざと言ってくるのは今に始まった事ではないが、こちらが挑発に乗るとわかっていてやってくるのが癪に触る。その時点で相手の手玉に乗せられているわけだが…。悠の思惑通りになるよう、敢えて挑発に乗ることにした。亀頭の先にローターを当てがい、リモコンで強度を上げる。 「あっ、結構つよ…っ」  そしてローターと亀頭を手のひらに収める様に強く握りしめた。 「あっ、んんっ!」  悠の腰が大きく跳ね上がる。感覚から逃れようとする悠の胴体に上からのしかかり、逃げ場をなくす。 「あっ、お、怒った? んうっ!」 「攻められたくてわざと怒らせてるんだろ」  ローターを握ったまま、手を上下させてみる。 「あああっ! ご、ごめんっ!」 「ごめんじゃなくて、もっとしてください、だろ?」  再度ローターと亀頭を強く握り締める。 「ああ、あ、あー…っ、イク…っ」  ドクドクッ、と射精する感覚が微かに指に伝わってきた。 「はっ、はあっ、はあ…」  手にかかった精液をローターに塗り込む。 「ほら、四つん這いになれ。挿れてやるから」  言われた通り四つん這いになった悠のアナルへ、絶えず振動しているローターを無理矢理ねじ込む。 「んうっ、いた…っ!」  勿論このままでは多少挿れにくいので、挿れたり出したりを繰り返して穴をほぐす。 「奥まで飲み込め。いいか、出したらダメだからな」  親指でぐぐっ、とローターを押し込んだ。ローターについている紐だけを残し、本体はすべて尻の中へ飲み込まれていった。 「あっ、ああっ、んううっ」  振動を最大まで強くしているせいで、尻の中へ飲み込まれた状態でも微かにバイブ音が聞こえてくる。四つん這いの状態の悠の口に、自分の性器を咥えさせた。 「ぐっ、ぐぷっ、んふ…っ」  喉の奥までゆっくりねじ込むと、声にならない声が鈍く鳴った。窒息しない程度に、ゆっくり腰を振る。悠はすでに涙目になっており、自身の身体を支える腕と脚が少し震えている。 「もう出していい?」 「んーっ、んぐぅっ!」  イキそうになったのを感じ、尻に入れていたローターの紐に手をかけ、射精と同時に勢いよく引き抜いた。 「んううううっ!」  ぼとり、とローターがベッドの上に落ちる。悠の口内は精液でぐちゃぐちゃになっていた。 「どうだ…これで満足か?」 「はあ、はあ、う、うんっ…」  息を切らした悠が返事をした。 「嘘つくなよ。まだ足りてないだろ?」  先程までローターを飲み込んでいたアナルへ、休む暇を与えずに自分の性器を挿入した。 「えっ、あっ、あはっ! あはははっ」  何がおかしいのか、挿入した瞬間、悠がいきなり笑い出した。 「…? いきなりどうした…?」  問いかけながら腰を振る。ベッドの軋む音を気にすることが無いので、自宅でするよりも激しく、強めに動いてみせた。 「んふっ、あっ、最高っ、あっ!」  腕で顔を覆い隠しながら笑う悠。 「何笑ってんの?」 「えっ、だって、久々にドSな感じが見れたから、んっ、ああっ…!」  久々に周りを気にせずにするセックスにテンションが上がっている様子だ。 「…だったら顔隠すなよ」  顔の上に置いていた腕をどかし、そのまま両腕を押さえつけた。眼は涙で薄く濡れ、顔は耳まで赤く染まっており、口の周りは涎と精液でベタベタになっていた。  昨日のベッドの上での会話や、先程のシャワー中の会話の時とは全く違う表情。人間誰しも多面的だとはいえ、こうも違うとこいつの本心がわからなくなってくる。 「お前さ、俺のこと好き?」 「…えっ? うん、す、好きだよ。もちろん」 「俺とセックスすることが好きなの?」 「えっと、セックスも好きだけど、それだけじゃなくて、浩樹くんのことがちゃんと好きだよ」 「…こうやって色ボケしてるところを見てると、俺が好きなんじゃなくて、こうしてケツ掘られてるのが好きなだけなんじゃないかって思うよ」 「ち、違うって、前にも言ったじゃんっ…!」 「へえ、本当かな…」  そう言って腰を振る力を一層強めて、思い切り身体をぶつけて奥まで突いてみせた。 「あっ、ああっ!」  悠の顔がぐしゃりと歪む。眉間に皺が寄り、歯を食いしばっている。表情を歪めたまま、涙目の状態でこちらを睨んできた。 「こ、浩樹くんばっかそんなこと言ってズルいって…! 一度でも僕に好きだって言ったことないくせに!」 「…!」  悠の発言を聞いて、思わず動きが止まる。 「浩樹くんだってどうせ僕が身体を好きにさせてるから、都合がいいから付き合ってるだけでしょ。僕はそれでも別に良いけど…」  悠が上半身を起こし、俺の身体を押し倒して上に乗っかる。 「良いように利用されてるとわかってても、僕は浩樹くんの事が好きだよ」  騎乗位の体勢になった悠が膝を立てて上下に腰を振る。いつもよりも激しく動くせいで、振動がモロに腹部へ伝わってくる。 「はあ、あっ、自分の話になると途端に黙るのも、浩樹くんの得意技だよね…」  そう言って両手をベッドの上についた状態で腰を振り続ける悠。悠に攻められるがまま、そのまま中に射精した。  すると悠が上に乗っかった状態で、体重を預けるように抱きついてきた。いつもなら終わった後に軽くシャワーを浴びるのだが、悠が身体を離そうとしない。 「おい、どうした…疲れたのか?」  ふとベッドの前のテレビモニターに目をやると、時刻は零時をとうに回っていた。 「あ…」  十二月二六日、悠の誕生日だ。 「なあ、日付変わってるぞ…」  そう言うと悠は抱きついたまま、顔を上げてこちらをじっと見つめてきた。 「…自分だって相当疑り深いくせに、いざ自分が問い詰められるといつも何も言わないのほんとずるい。どれだけ好きか伝えても信用して貰えない気持ちわかる? 信用に値しない僕が悪いの?」  悠は先程の会話についてまだ怒りがおさまらないようだった。事が終わって冷静になってきた今、先程の俺の発言や態度がただの独りよがりだった事に気が付いた。しかも、真剣に向き合ってくれたのが俺だけだったと話してくれた直後にこれだ。己の疑り深いところやつい邪推してしまう癖を認識していたはずなのに、また以前と同じ間違いを犯してしまった。  悠がゆっくりと身体を起こし、ベッドの上に座り込む。 「やっぱ惚れた方が負けなんだね。これだけ信用されなくて疑われてばかりでも、浩樹くんの事嫌いになれないから。僕だってこんな面倒臭いこと言いたくないんだよ…。今までの人達みたいに、身体だけの関係だって割り切れたらどんなに楽かって思うけど…、ううっ…」  悠が話している最中に泣き出した。 「ごっ、ごめん。悠、ごめんな。俺の方こそいちいち疑ったりして悪かった。余計な事言った俺のせいだよ」  肩を抱いてさすっても泣き止む気配はない。 「…泣いたら、こんな事でいちいち泣くなって、男のくせに、女々しいって…」 「言わない言わない、そんな事言わないから…」 「うっ、なりたくて不安定になってるわけじゃないのに、いつも僕が悪いみたいに…。グスッ、面倒臭いとかメンヘラとかって…!」 「思ってないって…! 昔誰かに言われただけだろ?」  悠の目が赤く充血している。こんな形で誕生日を迎えるとは思ってもいなかった。 「男の人ってずるい。いつも都合悪くなったらはぐらかして、重いとか言って馬鹿にして向き合おうとしないもん。本気になるのがダサいとでも思ってんのかな…? でもこれも全部…、女でもないのに男が好きな僕が悪いんだろうけどさ」 「いや…今時、性別とかそんなんどうでも…」 「どうでも良いと思うんだったら早く好きって言ってよ」  咄嗟に手を掴み、赤く腫れた目で訴えかけてきた。 「……」  案の定言葉に詰まる。言うだけなら簡単な言葉を、何故か口に出す事が出来ない。 「…ほら、やっぱり言えないじゃん。別にそんな言葉、何の意味も無いってわかってるけど」  悠はそう言って、諦めたように強く握っていた手を離し、顔を逸らす。 「今時性別なんて関係ないとか、時代は変わってるとか言っても、浩樹くんみたいな人は実際何も分かってない。だって普通の人だから。…僕だって…普通がよかった」    そう言って、悠はそのまま横になったきり、一言も話す事はなかった。

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