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【番外編】明日までずっとそばにいて・1

 昨夜まで部下として(りょう)を立て、控え目な態度を崩さなかった真人(まさと)が、気持ちが通じ合った今、遠慮なく怜にのしかかっている。  とは言え、彼が怜に触れる唇や指先は、とてつもなく繊細だ。息まで殺している。まるで少年が、憧れの昆虫に遭遇して手を伸ばす時のような、胸の高鳴りまでもが伝わってきそうだ。 「怜さん、気分悪くなったら、すぐ言ってね」  さっき貧血を起こして気絶しかけた怜に負担を掛けまいと、真人は気遣っている。ちゅっと小さな音を立てて短いキスを唇に落とし、シャツのボタンを一つずつ(うやうや)しく外す。高級なチョコレートが包まれた美しい箱のリボンをほどくように丁寧だ。  怜の白い素肌を見た彼は、一瞬眩しそうに目を(すが)めた。きゅっと唇を引き結び、彼は自分のTシャツを脱ぎ捨てる。口づけながら覆いかぶさってくると、肌同士がじかに触れ、互いの早い鼓動が感じ取れる。怜は気恥ずかしさに目を伏せる。 「ひんやりしてる」  そうっと、肩から二の腕を撫でられる。その触れ方は、ただ優しくいたわるだけで、性的な色合いは全くない。  男同士の関係では、いきなり互いの身体を貪り合うようなこともあるが、真人は、怜にそういう即物的な関係を望んでいるわけではない。もっとロマンティックな関係を結びたいのだと、眼差しや触れ方で雄弁に訴えてくる。  あらわになった真人の上半身はしなやかそうで、肩や胸にはきちんと筋肉が乗っている。服の上からでも、彼がスポーツマンらしい体つきなのは見て取れる。しかし、元モデルだし細いのだろうと漠然と思っていたら、良い意味で予想を裏切る逞しさだ。性的な魅力を振り撒く彼の肢体を前にすると、思わず見入ってしまいそうだが、変に興奮してしまいそうで、恥ずかしい。結果、視線を落ち着かなく彷徨(さまよ)わせる。 「春田、すごい鍛えてるんだね」  人差し指で線を引くように、二の腕の筋に沿ってなぞると、真人は困ったように眉を下げた。 「もっと筋肉付けたいんだけど、日本ではモデルはこれくらいが良いんだって。絞ってたら、体質になっちゃったみたいで、今トレーニングしても筋肉付かないんだよね。  ……それよか、怜さん。そんなエロい表情(かお)で、エロい触り方しないで。せっかくだから、ゆっくりしたい」 「だって……。これまで気持ち抑えてたからさ。早く春田を知りたいんだ」  訴えるように彼を見つめる自分の目は、きっと妖しい光を放っているだろう。怜は内心思いながら、真人の耳をくすぐるように優しく息を吹きかけ、二の腕に線を引いた人差し指を、焦らすようにゆっくりと胸へと滑らせる。 「ああ……」  眉をひそめ、熱い吐息をもらす真人の身体は、小刻みに震え出した。背中に手を回して抱き寄せ、ゆっくりと腰をうねらせながら怜が自分の身体を擦りつける。真人は身体を固くした。  性急すぎたのだろうか? 少し身体を離して表情を窺うと、彼はムスッとしている。 「体調悪そうだから無理させたくないし、こんな状況でがっついて嫌われたくないから、必死に抑えてたのに……。もうダメ。我慢できない」  怒っているのかと思いきや、口調は拗ねた子どものようで、甘える響きすらある。しかし、少年のような可愛らしさに怜がきゅんとしていると、真人はいきなり獰猛(どうもう)に牙を剥いた。怜の胸の上に伏せたと思いきや、強く突起を吸い上げる。痛い。でも気持ち良い。脊髄(せきずい)に電気が走るような強い刺激に、怜は呻いた。 「つっ……あ、っ、はぁ」  胸を突き出してのけぞる。そこには早くも血液が集まり薄紅色に色づく。真人は、恥じらう薔薇のつぼみのようにツンと存在を主張し始めた尖りを眺め、満足げに再び怜の薄い胸に吸い付く。尖りだけでなく、胸中に花びらを散らすように(しるし)を付けていく。 「っ、そんなにいっぱい、跡付けんな……っ」  痛みさえ快感に変わるほど欲情しているのを知られたくなくて、つい強がりながら抵抗すると、真人は含み笑いを浮かべる。 「怜さん。ツンなのは可愛いけど、説得力ないよ」  服の上からおもむろに屹立した急所を撫で上げられ、怜は首根っこを(つま)まれた子猫のように固まった。次の瞬間、赤らんだ頬をぎこちなく隠そうとした手を取られ、手の甲に口づけられる。 「嬉しい。俺に反応してくれて」  真人はどこか誇らしげで嬉しそうだ。照れ隠しに憮然としながら、怜は仕返しとばかりに、真人の鼠蹊部をなぞるように愛撫する。 「ふうぅ……。気持ち良い」  そう言いながらも、まだ真人は余裕がある。再び怜の上に伏せてきて、今度はおへそを舐めてきた。 「ああ……っ。もお、焦らすなよぉ」  自然に腰が(よじ)れてしまう。いつの間にか、自分が発情した猫のように甘えた声をあげていることに気づいたが、焦らされるほうが辛い。早くもっといやらしいことをして欲しい。 「ねえ……、真人」  半ば無意識に苗字ではなく名前を呼びながら懇願する。彼の胸の頂を指の腹で弾き、背中から腰まで手のひらを滑らせると、さすがに堪らなくなったのだろう。真人は、熊が獲物をひっくり返すように、ひょいと真人を裏返して四つん這いにさせた。吐息が耳に掛かる。そのまま、首筋を唇と舌で愛撫される。 「あ……、き、もち、」

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