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【番外編】明日までずっとそばにいて・2
焦らされ待ち侘びた分、与えられた快感は甘露 のようだ。飴を舐めしゃぶるように怜は貪欲に快感を味わった。瞼を閉じ、口をうっすらと開いて陶酔した表情に、真人は興奮してきたようだ。もはや荒げた呼吸を隠しもしない。シャツを脱がせた時とは打って変わって、性急で強引な手つきで怜のベルトを外し、ズボンを下げようとしている。脱がせやすいようにと、自分から少し脚を広げる。真人の唇が怜の背中に落とされる。
「ひゃっ」
くすぐったい、と思った次の瞬間、舌で汗を舐めとられる。
「あ、やだ。汗くさいから、」
慌てて怜は軽く抵抗したが、真人はやめるどころか、声に喜色を含ませ、ねっとりと舌を這わせてくる。
「全然くさくないよ? むしろ萌える。怜さんが、たまに会社で汗かいてるの見て、俺、妄想してたんだよね。すんすん嗅いだり舐めたりしてえー! って」
「ばか。ふっ……んん……」
言葉にならない喘ぎ声をあげながら身を任せていると、がばっと、突然何かを思い出したかのように真人が身体を起こした。きょとんと見上げると、彼は照れたように怜を抱きおこした。
「俺の首につかまって」
素直に従うと、彼はあっさり怜をお姫様抱っこで持ち上げた。
「ごめん、つい夢中になっちゃって。怜さんと初めてするのに、ソファなんかじゃ失礼だよね」
蕩けそうな甘い笑顔で微笑みかけられ、怜のほうが頬を赤くする。最初はきちんとベッドで抱き合おうだなんて。真人は、とことん怜を大切に扱うつもりのようだ。
「寝室って、こっちで良いの?」
「……ん」
リビングの奥に視線を送る真人に言葉少なに答えると、真人は嬉々として怜をベッドへと運ぶ。
ベッドライトを付ける。リビングの明るい蛍光灯とは質が異なる、柔らかい薄明りに照らされた互いの顔には、深い影が落ちている。どちらからともなく、二人は身体を寄せ合い、唇を重ねる。何度も角度を変えて口づけると、二人の吐息と湿ったキスの音だけが静かな寝室に響く。
「……綺麗な目だね。初めて会った時から、吸い込まれそうだった」
独り言のように呟きながら、真人は、右、そして左と、順に怜の睫毛に唇を落とした。
「いつも大きい眼鏡で隠してるよね。瞳の色を話題にされるの、嫌いなんだって? 周りの人に聞いたんだけど」
「必ず『ハーフなの?』って聞かれるんだ。日本人なのに。いちいち否定しなきゃいけないから嫌でさ。子どもの頃は、しょっちゅう女の子に間違われてたし」
真人の声や表情には、怜の生まれ育ちに対する勘繰りや好奇心は含まれていなかった。景色や花を見て感動した時のような素直な賞賛だと感じたから、怜も自分の劣等感を正直に打ち明けた。
「しかも大人になってからは、その顔に魅せられた人に口説かれてウンザリしてたんでしょ」
含み笑いに、わざとふくれっ面をして見せ、真人のみぞおちに軽くパンチした。
「……俺は違うよ。怜さんの顔も、もちろん好きだけど。顔だけじゃないよ」
「うん、知ってる」
自分から真人の首に抱きつき、彼の口に舌を滑り込ませる。途端に、火が付いたように二人の身体は熱くなった。人を好きになるということは、相手とひとつになりたくなる欲求なのだと、改めて実感する。二人は全てを脱ぎ捨て、おもむろに肌を擦り付け合う。甘い喘ぎが和音のように重なる。上になったり、下になったり、じゃれ合う二匹の動物のように狭いベッドの上で転がる。最初は少し冷えていた怜の肌は温められ、体温が溶け合って気持ち良い。
「……貸してくれた毛布とかパーカーと、同じ匂いがする」
真人の上に乗っかり、彼の首筋に鼻先を押し付け、胸いっぱいに匂いを吸い込んだ。彼は両腕を広げ、されるがままだ。犬同士が挨拶する時は、互いに匂いを確かめ合う。それと同様、今は怜のターンだと言わんばかりに大人しい。
「よく考えたら、俺、ヤバい男だね。怜さんに自分の匂い付けてたんだ。マーキングかよ。でも、怜さん、俺の匂い覚えててくれたんだ。どう? 好きな匂いになりそう?」
「うん。悪くないね」
澄ました表情で答えると、真人は上体を起こし、怜を胡坐 をかいた自分の膝の上に座らせた。怜は、自然と真人の中心に手を伸ばす。触れた時には既に興奮し始めていたが、優しく揉み込むと、脈打ちながら大きさや硬さを増してくる。素直な反応が可愛らしく思えて、丸い先端を「良い子、良い子」と撫でる。湧き上がる蜜に濡れてきたのが、怜を求める熱量に思えて、ごくりと生唾を飲み込んだ。艶めかしい吐息をついた真人は、怜の手の上から自分の手を添えて包み込み、二人のものをまとめていっぺんに愛撫し始めた。自分の一番密やかな部分が、真人とぴったり密着し擦り合わされている現実に、目が眩みそうだ。だが、恥ずかしいとか嬉しいとかの感慨にふける余裕は与えられない。真人は力強いストロークで怜を追い立てていく。先ほどまでの遠慮がちで優しい触れ方とはまるで違う。薄くデリケートな皮膚が引っ張られ、最初は淡い痛みが混じったが、不快ではなかった。痛気持ち良いくらいだ。優しい真人がチラッと覗かせた男らしい強引さは、むしろ好ましい。二人の蜜が絡まり、滑らかさが加わったそこは、急激に昂らされる。
「ああ……っ」
切ない声を漏らすと、二人の手の中で、ぐんと真人の嵩 が増す。
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