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Scene-3
「ああ確かに無愛想だわなあ」
綾子先生はくわえ煙草に腕組みして笑った。 先生はサバサバした性格で男女問わず生徒から人気がある。しかも美人だ。
「校内禁煙じゃないの先生」
俺が灰皿を避けてプリントを置くと、
「絶対他の先生には言うなよ」
と睨んでから笑った。こういう悪ガキみたいな所も人気の一つかもしれない。
「でもあれじゃ友達できないのに」
俺は話を戻す。
「なに藤原、沢井のこと心配してんの?」
やっさしーと、からかうように言いながら綾子先生が窓を開ける。今日は晴天、ゆるりと吹いた風が先生の編み込んだ髪のおくれ毛を揺らした。
「か、からかわないでよ!」
俺は何だか顔が熱くなるのを感じて綾子先生に背中を向けた。先生の笑い声を背中で聞く。
「でもさ、そういう奴もいたんだって覚えておいてやれよ」
真面目なトーン。タバコの煙と一緒に綾子先生の口から流れた。
「どゆこと?」
俺が振り向く。
「ん?言葉のままだよ」
綾子先生は俺の目を見つめた。その瞳がとても優しい。
「学校生活の中でそういう奴もいたんだって、覚えておいてやれってこと」
「…何か今のお母さんみたい」
息子の友達によろしくねと言う母のようなニュアンスか?
「お、おかっ…!」
綾子先生が灰皿に煙草を押し付けながら、お前なあという顔を向けた。
「ごめんごめん、先生既婚者だけど子供はいないもんね」
「シメっぞ藤原、年齢的にも高校生の息子なんか持てんわ!」
綾子先生が笑いながら睨んでくる。シメっぞとか普通生徒に言うかなあと俺も笑った。そこがまた、飾らない先生の人気の一つ。
「でも…」
俺はふと思った。
「今のはお母さんて言うより…」
あれ?
何だろう?
しっくり来る言葉が頭に浮かばない。「んん?」と考える俺を横目で見て、綾子先生はクスリと笑った。
「ほら藤原、そろそろ部活行けよ。テーブルテニスってこい」
先生に背中を押される。引っ掛かった何かの答えは出なかったけど、まあいいやと思って、俺はピンポンバカにすんなと捨て台詞を残すと、綾子先生に手を振った。
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