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見知らぬ世界 2

 その瞳が瞬きを繰り返して、目の前に広がる景色に視線を移した。 「んん? 俺、まだ夢、見てるのかな?」 「なら、俺も渚と同じ夢を見てるってことになるな」 「……て、荒玖っ?!」  渚はやっと俺の存在に気づいたのか、びっくりしてからペタペタと両手で顔に触れてくる。  ……いや、自制心が壊れるから触れてくるなって……。 「触れる! 夢じゃない! いや、夢かもっ! ほっぺた、つねってみるっ」  そう言うと、渚はその宣言通り自分の頬を指でつねった。  そんなよく分からないことをし出す親友を黙って見守りながら、俺は頭の中で思考を巡らせる。  そもそも、これは夢なのか。  夢じゃないとして、俺と渚はどうやってこの見知らぬ場所に来たのか。  あの後、俺達は死んだのか。  もしそうだとしたら、ここは死後の世界なのか。  そんな答えも見つからないことを、ぐるぐると考えていた。 「痛い……」  渚は本当につねってみて痛かったらしく、両手で頬をさすっていた。  そんな強くつねらなくても、と思うが、突っ込まないでおくことにする。 「渚は、ここに来る前のことは覚えているのか?」 「ん? えっと駅の階段から落ちたことだよな? もしかしてあれが原因なのかな……てことは死んだのか? 俺、荒玖を巻き込んじゃったってことなのかな……」  渚はしゅんとなり、申し訳なさそうな顔をして項垂れた。  犬の耳でもあったらだらんと垂れてそうだなと、どうでもいいことを考えながら、その頭を優しく撫でてやる。 「ここが死後の世界かは別にしても、今からどうしようかって話だと思うぞ」 「そうだな……」  俺の言葉に応えながらも、渚は不安そうに辺りを見渡した。  まったく知らない場所に、いきなり放り出されて不安になる気持ちは痛いほどわかる。  でも渚が不安なら俺がしっかりしなければ、不安な気持ちが連鎖して動けなくなってしまう。  今、こいつを支えてやれるのは俺だけなのだから、動き出すきっかけを作らないと。  そう決意を新たに、腰を上げて、渚に手を差し出した。 「辺りを調べてみよう。何か分かるかもしれない」 「あぁ」  渚は差し出された手を取り立ち上がると、ズボンについた草を払った。 「あちこち山だらけで道もわからないから、とりあえず川に沿って歩いてみようか」 「でも、山の中に入っちゃったらどうしよう……」 「その時は逆に、川に沿って歩いてるんだから元きた道を戻りやすいだろ」 「そうだよな……」  いつもの渚ならこのくらいのことなんてすぐ気づくはずなのに、それに気づけないほど不安が大きいのだろう。  本当に俺がしっかりしなくては。

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