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君の不安

 歩き出してからも、渚はずっと不安そうだった。  先へ進めど景色はあまり変わらず、森こそないものの、視界に見える景色は草原と山ばかり。  前へ進むたびに渚の口数が減っていって、応答も薄くなっていく。  その理由は俺にもよく分かった。  もうかれこれ三十分くらい歩き続けていて、水分補給もしていない。  川に沿って歩いてはいるものの、この川の水は飲んでも大丈夫なのかもわからなくて飲むに飲めず、そろそろ喉も渇いてきていた。 「はぁ……っ、荒玖……ちょっと……待って……」  渚は立ち止まって大きく息を吐き出すと、俺の袖を引っ張って声をかけてきた。  不思議に思い、その顔を覗き込むと、額に汗が滲んで血の気が引いたように顔色が悪くなっていた。 「大丈夫か……? 顔、真っ青だぞ?」 「ちょっと……しん……どいかも……」  俺は渚の額に手を伸ばすとそっと触れる。  体温計があれば正確に分かるのかもしれないが、触った感じ熱があるように感じた。  心なしか頬もほんのりと赤く染まっていて、首元にもじんわりと汗が滲んでいる。  どうしてこうなるまで気づかなかったのか。  そういえば、今日は無駄に元気に振る舞っていた気がするし、屋上でも具合が悪そうに見えた。  もしかすると、朝から熱があったのかもしれない。  こいつはそういうところを隠そうとする癖があるので、直前まで気づけないことも結構あったりするのだ。 「渚、ちょっと休もう。倒れたら元も子もない」 「ごめん……」  俺は着ていた上着を脱いで、緑の芝生の上に敷く。 「何やってんだ?」  不思議そうに聞いてくる渚に、 「この上に寝転んでいいから、少し眠った方がいい」  と声をかけてから、俺はその体を無理やり上着の上に座らせると肩を押して寝るように促した。 「……! 嫌だ……っ」  しかし渚は首をふるふると振って、寝転ぶことを拒む。  今にも泣き出しそうな顔で俺の服にしがみついてくると、ぎゅっと手に力を込めた。

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