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君の不安 2
「でも、熱がある。薬もないからこのまま歩いてると酷くなるかもしれない。一度眠って休めば少しはよくなると思うから――」
「眠りたく、ない……眠って起きたとき一人になってたらって思うと……怖い……」
「渚……」
いつもより不安げな声色に、それ以上何も言えなくなってしまった。
俺だって、もしも眠って起きたときに渚がいなくなっていたらって思うと、安易には眠れないかもしれない。
急に知らない場所にいて、右も左もわからなくて。
それでもなんとか冷静でいられたのは、渚が隣にいてくれたからだ。
起きたときにはお金も、食べるものも、飲むものもなくて、周りに見えるのは山と生い茂る草木と川が一本だけで。
こんなところに一人にされたらきっと、一歩も動けない。
「……わかった。なら、目だけでも瞑ってろ。手、握っててやるから」
「……うん」
渚の頭が俺の肩に寄りかかってくる。
ふわりと顔に絹のように柔らかい髪が触れて、柑橘の匂いが鼻腔をくすぐった。
こんな時なのに、渚との距離が近いというだけで心臓が早鐘を打ち始めてしまう。
「……荒玖」
渚の囁きにも近い小さな声が、俺の名前を呼んだ。
「どうした?」
不安にさせないように努めて優しくその声に応えると、柔らかな髪を撫でてやる。
「俺たち……死んじゃったのか……?」
「どうだろうか。なんだか、死んだっていうより、飛ばされたって感覚が近いのかもな。意識が無くなるときに誰かに呼ばれたような気がしたから」
「呼ばれた?」
「あぁ、気のせいかもしれないがな」
そう、確かに聞こえたような気がした。
その声色はとても寂しそうで、悲しそうで、泣いているようだった。
その声のこともあって、ここは死後の世界ではないんじゃないかと思っている。
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