13 / 228

君の不安 2

「でも、熱がある。薬もないからこのまま歩いてると酷くなるかもしれない。一度眠って休めば少しはよくなると思うから――」 「眠りたく、ない……眠って起きたとき一人になってたらって思うと……怖い……」 「渚……」  いつもより不安げな声色に、それ以上何も言えなくなってしまった。  俺だって、もしも眠って起きたときに渚がいなくなっていたらって思うと、安易には眠れないかもしれない。  急に知らない場所にいて、右も左もわからなくて。  それでもなんとか冷静でいられたのは、渚が隣にいてくれたからだ。  起きたときにはお金も、食べるものも、飲むものもなくて、周りに見えるのは山と生い茂る草木と川が一本だけで。  こんなところに一人にされたらきっと、一歩も動けない。 「……わかった。なら、目だけでも瞑ってろ。手、握っててやるから」 「……うん」  渚の頭が俺の肩に寄りかかってくる。  ふわりと顔に絹のように柔らかい髪が触れて、柑橘の匂いが鼻腔をくすぐった。  こんな時なのに、渚との距離が近いというだけで心臓が早鐘を打ち始めてしまう。 「……荒玖」  渚の囁きにも近い小さな声が、俺の名前を呼んだ。 「どうした?」  不安にさせないように努めて優しくその声に応えると、柔らかな髪を撫でてやる。 「俺たち……死んじゃったのか……?」 「どうだろうか。なんだか、死んだっていうより、飛ばされたって感覚が近いのかもな。意識が無くなるときに誰かに呼ばれたような気がしたから」 「呼ばれた?」 「あぁ、気のせいかもしれないがな」  そう、確かに聞こえたような気がした。  その声色はとても寂しそうで、悲しそうで、泣いているようだった。  その声のこともあって、ここは死後の世界ではないんじゃないかと思っている。

ともだちにシェアしよう!