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見知らぬ世界の住人

「そっか。俺には何も聞こえなかったけどな」  渚は困ったように苦笑する。  仮に俺が呼ばれたとして、渚がここへ一緒に来てしまったのは何か理由があるのだろうか?  もしくは理由なんてなく、一緒に落ちたことで来てしまっただけなのか。  そんなことを考えていた時に、遠くから何かが走る音が聞こえてきて、落としていた視線を上げ、辺りを見渡した。 「なぁ、渚。なんか聞こえないか?」 「ん?……あ、確かに」  耳を澄ませてやっとわかる程だったが、その音は徐々に近づいてきていて、俺は音のする方向に視線を向けた。  草原の向こう側から、何かがこちらに向かって走って来ている。  それが馬だということがわかったのは、騎乗者が手綱を引いたことで馬の鳴き声が聞こえてからだった。  一旦停止してしばらく止まっていたかと思うと、ゆっくりとその馬はこちらに歩いてくる。  しかし馬に見えたその動物は馬ではなかった。  鳴き声こそそのものだが、長い角が生えており、尻尾が二本ふらふらと揺れている。  その尻尾の先には青い人魂のようなものが揺蕩(たゆた)い、瞳のところには両目を隠す眼帯がされていた。  そして何よりも驚いたのはその大きさ。  軽く四メートルはあるのではないかというほどの巨体に思わず息を呑んだ。  俺は背中に渚を庇いながら、その馬のような動物を睨みつけた。  そんな俺達の警戒心とは裏腹に、呑気な少年の声が耳に届く。  聞こえてきた言語は俺達の住む世界と同じ日本語だった。 「君たち、迷子?」  その声は目の前の巨大な動物から聞こえてきた気がした。  俺はじりじりとそいつとの距離を開けながら声に返事を返す。 「その……迷子というか……迷子のような感じです」 「そうなんだ~」  そう言うと声の主はよっと掛け声を上げて、目の前の動物から降りてきた。  やっぱり動物が喋るわけないか、と心の中でツッコミながら、降りてきた少年を見つめる。 「初めまして。俺はレオナルク=イズヴェルト。レオって呼んでくれると嬉しいな」

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