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期待と不安 2

 民宿に着くと受付を済ませて俺と渚はそれぞれ部屋の鍵をもらい、受け取った鍵でドアを解錠して中に入る。  部屋の中はワンルームくらいの大きさで奥の窓際にダブルベッドが一つとその横に棚。  その向かいにデスクがあり、ベッドから見られる位置の壁際にテレビボードと液晶テレビが置かれていた。  部屋に入ってすぐのところに扉があるが多分、風呂とトイレだろう。  俺は小さく息を吐き出してから服を机において、そのまま倒れ込むように柔らかなシーツの上に寝転がる。 「…………」  消えたくないということではない。  むしろ渚を助けて、その代償がこの世界で消滅することなら、それはそれでいいと思っている。  何もせずに大切な人が死ぬくらいなら俺が犠牲になるなんて大したことではないのだから。 「……渚、何してるだろうか」  会いに行くのも憚られて、俺はもぞもぞと布団の中に潜り込んだ。  こんなことをしているほど、時間に余裕などないのに。  渚の優しさは俺が一番よく知っているから、頼めばきっとしてくれるだろう。  でも、それはあいつを傷つける行為に他ならなくて。  助けた責任を押し付けているようで。  そんなこと、言える訳がなかった。  言い訳ばかりが頭をぐるぐる回っている時に、部屋の扉がノックされる音が耳に届く。  控えめなノック音に、ドアの向こうに誰がいるのか嫌でもわかってしまった。  このまま寝たふりをした方がいいんじゃないか。  そうすれば話をしなくて済むのだから。  頭ではそうわかっているのに、俺の心に淡い期待が宿ってしまう。  布団から出て扉の前に立つと一度大きく深呼吸をしてから、ドアの前にいる相手に話しかけた。 「誰?」 『あ……の……俺…………渚、です』  緊張しているのか、声は上ずっていて、気心の知れた仲なのに敬語になってしまっている。  俺は仕方なく部屋の防犯ロックを解除して扉を開けた。  目の前には冬季から渡された部屋着を着た渚が立っていた。  ほのかに香る石鹸の匂いが鼻腔を(くすぐ)る。  多分お風呂に入ってきたのだろう。  その目の前の現実に、俺の心臓の鼓動が早くなった。 (この状況は、やばい……)  自分でも驚くほど早鐘を打つ胸をぎゅっと押えて、平静を装った。  そうでもしないと、今すぐにでも渚を押し倒してしまいそうだったから。

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