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気持ちの葛藤

 シャワーを浴びながら俺は放心していた。  頭の中では先程の出来事がずっとリプレイされていて、まるで夢でも見ているのではないかと思うほどだった。 「……渚と……する、のか……?」  嬉しい気持ちが半分と、罪悪感が半分。  仕方がないとはいえ、好きな相手と好きあってするわけじゃないことにものすごく良心の呵責を覚える。  渚は、本当にそれでいいのだろうか。  それとも少しは俺のことを意識してくれているから、ああ言ってくれているのだろうか。  ただの友人に、しかも同性に、気もないのにここまでするだろうか。  もしかしたら、渚も……俺のことを……。  そこまで考えて、その妄想を打ち消すように首を振った。  髪に残る雫がパラパラと辺りに散らばる。 「……ないだろ……。俺のことを、好きなんて……あるわけ、ない……」  そう思っていても期待してしまう自分がいて嫌になる。 「……俺、ちゃんと優しく出来るよな……?」  自分も初めてだが渚もきっと初めてだろうし、そういうことをするとなると渚が下になる以外想像できない。  なら、なるべく痛くないように優しくしてやれる余裕を持たないといけないわけで。 「好きな相手だぞ……暴走しそうで、怖い……」  好きだからこそ優しくしてやりたいけど、好きだからこそ、嬉しくて自制心を保てなくなりそうで。  そんな葛藤で三十分くらい悩んだ挙げ句、渚を待たせていることを思い出して俺は慌てて風呂から上がった。  さっさと体を拭いて、服を着る。  冬季が用意してくれた部屋着は少しだけ大きかった。  思い返してみれば、渚が着ていた服もダボっとしていた気がする。  タオルで髪を拭きながら洗面所を出ると、渚が窓際で外を眺めていて、窓から流れ込む夜風がサラサラと柔らかな髪を優しく揺らしていた。  どうやら俺が出てきたことには気づいていないようだ。  その唇が優しい音を奏でていることに気づくのに、少し時間がかかった。  いつもよりも小声で口ずさむ歌は、聴き慣れたメロディーで。  心が温かくなるような優しい歌声が、乱れていた俺の気持ちを少しずつ落ち着かせていく。  暫くのあいだ壁に背を預けて、渚の奏でる音にただ耳を傾けた。

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