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君の覚悟

「あ……」  ふと音が途切れて閉じていた瞼を開けると、俺の存在に気づいた渚がなんとも言えない表情をしてこちらを見ていた。 「聴、いてたんだ……ここに来る前も聴かれたよなぁ」  困ったように苦笑する渚に、俺はいつも通り静かに言葉を返す。 「そうだな。今回は恥ずかしくないのか?」 「恥ずかしいけど、聴かれてもいいかなって思ったから」  花が咲くように優しく笑いかけてくる笑顔を暫く見つめてから、ベッドに近づき腰を降ろした。  ギシッ……と軋みを上げる音に、渚は一瞬ビクッと体を震わせて。  それでも、俺が何もしてこないことに気づくと、そろそろと肩が当たりそうな距離まで移動してきてくれた。 「…………」  しばらく沈黙が続き、今度は俺から渚に声をかける。 「……嫌なら、今ならまだやめられる」 「……やめ、ない」  俺の最後の確認に渚は僅かな間を置いて小さな声で呟くと、そのまま言葉を続けた。 「やめない……。嫌じゃ、ない。だから、荒玖の心の準備が出来たら……その……よろしく、お願いします……っ」  ぎゅっと目をつむってガチガチに固まる渚に小さく笑みがこぼれた。  本当は怖いはずなのにここまで必死になって受け止めようとしてくれる優しさに、愛おしさがこみ上げてくる。 「緊張しまくってガチガチになってるぞ。お前の方が心の準備、必要なんじゃないか?」 「さっきまでしてたからっ! だ、大丈夫っ……!」  真っ赤になって頬を染める渚の手に、安心させるようにそっと触れる。 「ぁ……」  キツく閉じていた瞼をゆっくり開いて、俺を見上げてくる蒼い瞳を見つめ返してから、その頬に手を添えた。

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