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三十年の事件
段ボールからあんざい写真館と書かれたアルバムが出てきた。
あ、これって。
心春と円花と家族になって初めて撮影した家族写真だ。
あんざい写真館は町内に店を構える戦後に創業された老舗の街の写真やさんだ。
「円花がずっと泣いてて撮影どころじゃなかったんだよね」
「そうだったな。円花の機嫌が良くなったと思ったら、今度は心春が飽きて駄々を捏ねて大変だったんだよな」
「うん」
引っ越し準備そっちのけでアルバムを見ていたら、
「あ、そうだ」
あることを思い出した。
「どうした?」
「早水さんがね、写真を見せてくれたんだ。庭に咲いたコスモスの花を撮影していたときに、橋本さんと男性がたまたま写り込んでいたんだって。ピンぼけして顔までははっきりと写っていなかったんだけど、女性が赤ちゃんを抱っこして、男性が小さな子どもの手を繋いで散歩していたみたいだよ。早水さん、女性に小さな子どもがいることは分かっていたんだって。だから赤ちゃんがいつの間にか生まれていたからびっくりしたって」
「そうだったんだ。おそらく父と橋本さんだろう。小さな子どもか……生きていれば三十二歳、三十三歳そのあたりだろう。ヤスさんが一緒だったとはいえ、人見知りのきみがここまでしてくれるとは思わなかったから嬉しいよ。ありがとう」
肩をそっと抱き締められた。
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