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三十年前の事件

「姉さんなんて?」 「一度遊びにおいでって」 彼にじっと見つめられて、嘘はつけないと観念した。 「結お姉さんが紬ちゃんのお世話で手が離せないみたいで、櫂さんと話しをしていたんだけど途中で電話が切れてしまって。すぐにかけ直したんだけど繋がらなかったんだ。あの和真さん、怒らないで聞いてくれる?」 「どうした?さっきから変だぞ」 「お昼に食べたガトーショコラ、一口食べたら味が変だなって思って、残りは食べずにハンカチに包んでそのまま持ち帰ったんだ。妊娠したら味覚が変わるってよくいうでしょう。せっかく櫂さんが作ってくれたのに、残したら申し訳なくて……ごめんなさい。もっと早く言うべきだったのに……」 最後は言葉に詰まり下を向くと、温かくて大きな手が頭を撫でてくれた。 おそるおそる顔をあげると、にっこりと微笑む彼と目が合った。 「話しにくいことを正直に話してくれてありがとう。姉さんも悪阻が酷かったから、櫂さんもそのあたりは分かっているよ」 「ねぇ和真さん、お爺ちゃんの話しって?」 「嫁の貰い手がない孫を心配し、いつか必ずひ孫が産まれる。そう願をかけて、毎月一万ずつ十年間、こつこつと積立貯金をしてきたみたいだ。それが満期になり、願いも叶った。三等分し子どもたちに渡してほしいって」

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