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亀裂
櫂さんが結お姉さんを迎えに来たのは夜七時過ぎのことだった。
「なぁ、櫂よ。夫婦間の問題に首を突っ込む気はないが、これだけは言わせてくれ。嘘をつかない人はいない。罪のない嘘をたまにつくくらいなら誰も傷つかない。だかな、嘘をついていたのが自分の大切なカミさんで、その梨里花っていう女と男女の関係があれば裏切られたと思うのは当然だ。結にとってははじめての出産と子育てだ。はじめから出来る訳がないだろう。俺だって最初はなんで遥香が泣いているのかまったく分からなかった。遥香が泣くたびにおろおろして、何をやっても泣き止んでくれなくて、あのときは本当に大変だった。陽葵が紬くらいのとき、未知も結と同じように三時間おきに起きて陽葵に授乳していた。寝不足で髪はボサボサ、肌はカサカサ。腰痛と肩凝りで体もあちこち痛い。それでも弱音を吐かずに懸命に陽葵の世話をしていた。ワンオペ育児って知ってるか?結が一人で大変なときにお前は女とホテルか?いい身分だな」
「言っている意味が分かりませんが」
「じゃあ、これはどう説明するんだ?」
卯月さんが櫂さんに写真を突きつけた。
「今日、商工会の寄り合いがあって、たまたま偶然同じホテルにいたんだよ」
「……」
櫂さんの顔色が変わった。
午後二時前に一階のレストランで遅めの食事を終えたあと、写真のあの女性と仲良く腕を組み、外に向かうのではなく、そのままエレベーターで六階、つまり客室に向かった。それから三時間後、櫂さんは女性と手を繋ぎながら部屋からなに食わぬ顔で出てきた。
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