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亀裂

「きっと何かの間違いだよ。櫂さんが結お姉さんを裏切るなんて……そんなことあるわけないよ」 にわかには信じられなくて。パニックを起こしそうになった。それは彼も同じだった。 「彼女はいとこです。いとこと会うのがそんなに悪いことですか?」 「いとこだと?同級生の妹をバイトに雇ったって聞いたぞ。聞き間違いか?」 「誰から聞いたか分かりませんが聞き間違いです。結が変な誤解をしないように、そう思っていとこの梨里花に頼んだんです。彼女には同棲中の彼氏がいます。彼氏と喧嘩をして家を飛び出して、行くあてがないからあのホテルに泊まっているだけです」 卯月さんにどんなに睨まれようが、櫂さんは動じなかった。余裕綽々で、怖いくらい落ち着いていた。 「明日迎えに来ると結に伝えてください。では、失礼します」 櫂さんは軽く頭を下げるとドアに向かいゆっくりと歩き出した。 「いいか櫂、四季と結は俺にとって大事な身内も同然の存在だ。橘と柚原とヤスはふたりを実の娘のように可愛がっている。仏の顔も三度までだ。次はないからな、覚悟しておけ」 櫂さんがほくそ笑みを浮かべたような、そんな気がした。でも何事もなかったように帰っていった。

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