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亀裂
「おはようっす」
首にタオルを巻き、長袖のTシャツにダボダボのスボン、それに黒い安全靴を穿いた男性が額の汗をタオルで拭いながら入ってきた。
「四季ちゃん今日もキレイだね。これ今月分。ごめんね遅くなって」
茶封筒をヒラヒラと振った。
僕が知らないだけで、僕を知っている男性。お客さんには間違いないんだろうけど、はじめましてのお客さんだった。
「林さま。あの、すみませんが……」
なんとか場を取り繕うと頭に浮かんだ名前を適当に口にした。
「もしかして取り込み中?てか、見れば分かるってな。出直してくるよ。社長に林が来たって伝えておいてくんない」
「分かりました」
櫂さんが一瞬の隙をつき、目にも止まらぬ速さで男性のもとに風のように移動すると首元にボールペンみたいなものを突き立てた。それは先が注射針のように細かった。
「シャブを打たれたくなかったら言うことをきけ。手を挙げろ。命が惜しかったら余計なことはするなよ」
男性の手から封筒を強引に奪うとポケットにねじ込み、脅しながら出口にむかった。
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