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亀裂

櫂さんのあとを追い掛けようとした彼を青空さんが止めた。 「卯月さん追わなくていいんですか?助けなくていいんですか?」 「その必要はない。和真、まずは落ち着こうか」 卯月さんがソファーに座るように促した。 「居候中の宋に昔の仲間にどうしても会いたい。けりをつけたいと頼まれてな。危険は百も承知だ。こうでもしないと櫂の化けの皮が剥がれないだろう。結、大丈夫か?」 「卯月さん、櫂くんは?無事なんですか?」 結お姉さんの体ががたがたと震えていた。 「結お姉さん」 肩にそっと手を添えた。 「側にいたのに櫂くんが苦しんでいることに全然気付かなかった。私のせいだ」 結お姉さんの目から悔し涙が零れた。 「きみのせいじゃない。相手が一枚も二枚も上だっただけだ。二ヶ月前だ。宋と覃は櫂を見て妙な違和感を感じたそうだ。黒竜のメンバーとして寝食を供にし、同じ釜の飯を食べ、幾多の死線を乗りこえてきた仲間の顔をそう簡単には忘れないものだ。お互い顔が変わっているからパッと見ても気付かなかったみたいだがな」 卯月さんがソファーからすっと立ち上がるとスマホを耳にあてた。

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