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櫂さんの哀しい過去
お婆ちゃんが押し車の荷台から大事そうに取り出したのはマネキンの首から上の部分。髪は肩くらいまであった。目は薄く開き、顔は白く、耳にはピアスをしていた。まる生きているようだった。
「本物じゃないよね?」
和真さんの袖にすがりついた。
「あれはマネキンでもろう人形でもない。見た感じ30代の女性だ。恐らく見せしめのために連中に殺されたんだろう」
蜂谷さんの大きな手が顔を覆った。
「新米ママと妊婦に見せるもんじゃないな。四季、結、二人ともいいって言うまで目を閉じてろよ」
「四季、姉さん、何があっても守るから、蜂谷さんの言う通りにするんだ」
人だと聞いて恐怖で足がガタガタと震えだした。
「同じ人間なのになんでこんな酷いことが出来るの?」
「教祖の言ってることがすべて正しい。教祖の命令は絶対。教祖が唯一無二の神。自分達を光の世界に導いてくれる。そう信じて疑わない。だから教祖の命令とあれば喜んで自分の命を差し出すし、人殺しも厭わない」
ぴりぴりとした張り詰めた空気が辺りを包み込み、不気味なほど静かだった。
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