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二人の真山さん
首にしがみつくと、
「絶対に落とさないから。約束する」
不安な気持ちを一掃するかのように優しく微笑んでくれた。
九階から八階。八階から七階へ。休憩しながらゆっくりゆっくり階段を下りていった。
「ほら着いたぞ。トモ、車椅子を広げてくれ」
「ヤス兄貴、これどうやんですか?」
「座席の下に手を入れて、そのまま上げてみろ」
「あぁ、なるほど」
トモと呼ばれた舎弟さんが僕の前に車椅子を置いてくれた。
「キヨの狙いは四季と子どもたちだ。三人を連れ去れば和真はいうことを聞くしかないからな」
「ヤスさん、なんで卯月さんは真山さんが偽者だって気付いたんですか?」
「聡太がこの人はパパじゃないって教えてくれた。それに真山はオヤジのことを兄貴と呼んでいる。卯月さんなんては滅多に呼ばない」
「なるほど」
彼とヤスさんがそんな会話を交わしていたら、【有限会社 菱沼商事】と書かれたドアが静かに開いて心春がひょっこりと顔を出した。
「あ、ここちゃんのパパとママだ!」
ニコニコの笑顔で駆け寄ってきた。
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