145 / 431

二人の真山さん

「聡太、ごめんな。遅くなって」 よほど慌てていたのか彼が抱っこしていた円花を抱き上げようとした真山さん。 「真山、落ち着け。聡太はこっちだ」 「こっち?どこにいる?どこにもいないだろう」 「だから、俺の背中だ」 痺れを切らしたヤスさんが真山さんに背中を向けた。 「泣き疲れて、待ちくたびれて、ついさっき寝たところだ。哺乳瓶を受け付けなくて駄々を捏ねて大変だったんだぞ。起したら許さねぇぞ」 「分かった。頼むからそんな怖い顔をしないでくれ」 真山さんが両手を合わせ頭を軽くさげた。 「卯月の兄貴の親父さんが岳温泉で悠々自適の自給自足生活を送っている。そこでしばらく厄介になろうと思う」 真山さんは組に迷惑を掛けた責任を取り、渋川さんに組を辞めることを伝えた。 「後悔はしていない。と言えば嘘になる。でも、俺の家や組事務所から薬物が見付かった以上、組に戻ることは許されない」 真山さんは聡太くんを抱っこすると優しい眼差しで、愛らしいその寝顔をじっと見つめた。

ともだちにシェアしよう!