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発端
「荒唐無稽な話しかも知れないが、弓削はきみとヤスが実の兄弟じゃないか、そう疑っている」
「え?」
驚き過ぎて声も出ない僕に、蜂谷さんは、路上生活をしていたヤスさんを拾ったのも実は弓削さんだと教えてくれた。
「この男はこころやすらぎの幹部という立場を利用し、信者の女性を次から次に食いものにしていた。そのうちの一人、男が特に気に入っていた女だ。十九年前、突然姿を消した」
蜂谷さんがスマホの画面をスクロールした。
「蜂谷さん、なにも今言わなくても……」
彼の声が後ろから聞こえてきたからギクッとした。
「白黒つけたい、そうオヤジに頼み込んだのは和真、きみと、副島親子だろう?」
「それはそうですが………」
言葉を濁すとそのまま黙り込んでしまった。
「和真さん、どういうことなの?」
手を伸ばし彼の袖を掴んだ。
「それは、ええと」
あやふやな口調で返事をすると、顔をしかめた。
「四季と初めて会ったのに、なぜかすごく懐かしくて。他人にはどうしても思えなかったんだ。ヤスさんが何気に漏らしたその言葉が妙に引っ掛かって。それで副島に相談したんだ。四季のお母さんは人見知りで……今でコミュ障かな?ほとんど人前には出なかったそうだ。まこさんは家に籠りっきりだった四季のお母さんをどうにかして外に出そうとしていていたみたいだ。バス事故が起きる8ヶ月前、まこさんは五色沼と裏磐梯の紅葉が綺麗だからとドライブに誘ったそうだ。四季のお母さんはあまり乗り気じゃなかったみたいだけど、コウお兄ちゃんが行くなら四季も行きたいと、きみが駄々をこねて、渋々出掛けることにしたそうだ」
幼すぎて当時のことは何一つ覚えていなかった。
「じゃあ、大きくなったらコウお兄ちゃんのお嫁さんになるって言った記憶は?」
「僕、そんなことを言ったんですか?」
目の前が一瞬、真っ暗になった。
「そうだよ」
彼の顔は笑っていたけど、表情はかなり強張っていた。
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