158 / 431
発端
「いっしゃん。はよー」
「おはよう心春」
弓削さんの【ゆ】の発音が難しいみたいで、心春は弓削さんのことをいっしゃんって呼んでいる。
「保育園楽しんで来い」
「はぁ~~い」
「弓削さん、妻のことを宜しくお願いします」
「おぅ、任せておけ」
いってきます!笑顔で手を振りながら彼と手を繋ぎ、今日も元気いっぱい保育園に向かった。
「弓削さん、話しってなんですか?」
「和真とハチからだいだいのことは聞いたと思う。白黒つけるためにDNA検査に協力してもらいたい」
「弓削さん、それでもし僕がヤスさんの実の弟だって分かったら、その……」
「なにも変わらない。今まで通りだ。ヤスは死ぬまできみの側から離れない、そう言っている。可愛い娘が、妹になるんだ。これほど嬉しいことはないだろう。不安にさせてすまない。とりあえず中に入れ」
弓削さんがドアを手で押さえてくれた。
ドキドキしながら事務所の中に入ると、卯月さんと柚原さんが笑顔で出迎えてくれた。
「円花、ママは大事な話しがあるんだ。その間、ぱぱたんと遊んでいようか」
柚原さんが円花を抱っこしてくれた。
「呼び出して悪いな」
「いえ、大丈夫です」
首を横に振った。
「覚えているか?冷凍保存された櫂の母親の首を持っていたお婆さんのこと」
「はい、覚えいます」
「話していた言葉は中国語だ。亜優や柚原たちに聞いたら、あの子は忌み子だ。不幸を呼ぶ子ーーそう言っていたらしい。海堂は四季を亡き者にし、自分の子であることを隠そうとした。俺はそう見てる。海堂はシェドと手を組んだことで権力と莫大な金を手にした。それを継承させる跡取りが必要になったんじゃないか?赤の他人には渡したくない。だから、ベビカズに目を付けた。四季はいらない。でも、ベビカズはどうしても欲しい。だから、またきみを狙いはじめた」
「この子は僕と和真さんの大事な赤ちゃんです。心春と円花の大切な妹です。なんで今ごろ………自分勝手すぎる」
お腹を両手でそっと抱き締めた。
ともだちにシェアしよう!