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発端

「いっしゃん。はよー」 「おはよう心春」 弓削さんの【ゆ】の発音が難しいみたいで、心春は弓削さんのことをいっしゃんって呼んでいる。 「保育園楽しんで来い」 「はぁ~~い」 「弓削さん、妻のことを宜しくお願いします」 「おぅ、任せておけ」 いってきます!笑顔で手を振りながら彼と手を繋ぎ、今日も元気いっぱい保育園に向かった。 「弓削さん、話しってなんですか?」 「和真とハチからだいだいのことは聞いたと思う。白黒つけるためにDNA検査に協力してもらいたい」 「弓削さん、それでもし僕がヤスさんの実の弟だって分かったら、その……」 「なにも変わらない。今まで通りだ。ヤスは死ぬまできみの側から離れない、そう言っている。可愛い娘が、妹になるんだ。これほど嬉しいことはないだろう。不安にさせてすまない。とりあえず中に入れ」 弓削さんがドアを手で押さえてくれた。 ドキドキしながら事務所の中に入ると、卯月さんと柚原さんが笑顔で出迎えてくれた。 「円花、ママは大事な話しがあるんだ。その間、ぱぱたんと遊んでいようか」 柚原さんが円花を抱っこしてくれた。 「呼び出して悪いな」 「いえ、大丈夫です」 首を横に振った。 「覚えているか?冷凍保存された櫂の母親の首を持っていたお婆さんのこと」 「はい、覚えいます」 「話していた言葉は中国語だ。亜優や柚原たちに聞いたら、あの子は忌み子だ。不幸を呼ぶ子ーーそう言っていたらしい。海堂は四季を亡き者にし、自分の子であることを隠そうとした。俺はそう見てる。海堂はシェドと手を組んだことで権力と莫大な金を手にした。それを継承させる跡取りが必要になったんじゃないか?赤の他人には渡したくない。だから、ベビカズに目を付けた。四季はいらない。でも、ベビカズはどうしても欲しい。だから、またきみを狙いはじめた」 「この子は僕と和真さんの大事な赤ちゃんです。心春と円花の大切な妹です。なんで今ごろ………自分勝手すぎる」 お腹を両手でそっと抱き締めた。

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