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発端
その日の夜。
「あっ、パパだ!ヤスしゃんもいる!」
彼とヤスさんが一緒に帰宅したのは夜九時過ぎのことだった。
「寝ないで待っていてくれたのか?」
「うん」心春が元気いっぱいに答えると、目を細めて頭を撫でてくれた。
「お帰りなさい」
「ただいま」
「あのね、和真さん」
「どうした?」
「えっと、その……」
彼にどう話したらいいのか分からなくて。
「やっぱりあとでいい」
言葉を濁すと、
「卯月さんと色々と話しをしていたから遅くなったんだ。ごめん」
「四季、オヤジと弓削から聞いたと思うが……」
「ヤスさんと実の兄弟かも知れないって聞いて。僕、すごく嬉しかったです」
彼とヤスさんを不安にさせないようにわざと明るく振る舞った。
「四季、きみって子は……」
「ヤスさんのこと、兄ちゃんって呼ぶ練習をしなきゃ。なんか、緊張してきた」
「か、和真さん、ヤ、ヤスさん」
彼とヤスさんにぎゅっと抱き締められた。一日中働いた汗の匂いが染み付いた作業服とTシャツ。この匂いを嗅ぐとすごく安心する。
「和真、四季が潰れてしまう」
「四季はそんなに柔じゃありませんよ」
「あ~~!パパとヤスしゃんばっかずるい!こはるちゃんもママがすゅきなのに!」
仏頂面した心春が割り込んできて。膝の上によじ登ると、僕の服をぎゅっと掴んだ。
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