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二つの顔を持つ殺し屋

「イケオジっていうみたいよ」 「イケオジって?」 「いけてるオヤジの略みたい。ブランドものをさりげなく着こなして、身に付けている時計や指輪もかなり値が張るものよ」 ヤスさんは防犯カメラに写っていた男性を睨み付けるように見つめていた。 「ヤスさん、もしかしてこの人……」 「この世で一番会いたくない人だ。もう一人の男ははじめて見る顔だ」 ヤスさんのお父さんということは、つまり………。 「四季、きみは長澤夫婦の息子だ」 ヤスさんは僕を気遣ってくれた。 「先生、虫の息だったその女性は?助かったんですか?」 「それがよく分からないの。どこの病院に搬送されたことすら教えてくれなくてね。あ、そうだ」 南先生が引き出しから鍵が付いたお守りを取り出した。 「その女性が倒れていた場所から少し離れた草むらの中にこれが落ちていたの」 「見せてもらってもいいですか?」 「えぇ」 ヤスさんはポケットから使い捨てのビニールの手袋を取り出すと、南先生からお守りを受け取った。 「預かってもいいですか?」 「もし持ち主が誰か分かったら、ご家族の方に返してあげて」 「分かりました」 ヤスさんはジッパー付きの袋に入れると、上着の内ポケットにしまった。

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