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二つの顔を持つ殺し屋

「きら、何しての!」 母親が迎えに来た。 「勝手に先に行かないで。待ってて。そう言ったよね?」 母親は男の子を叱ると腕をがしっと掴み、そのまま連れていこうとした。 「瀧田さん」 院長の永原先生が母親に声を掛けた。 「まずは彼にぶつかってごめんなさいと言ったらどうですか?怪我はありませんか?痛いところはありませんか?気遣いの言葉はないんですか?それと受付で言われたませんでしたか?車椅子の妊婦さんがいるのでぶつかると危ないので注意して下さいと」 永原先生は感情を押さえ諭すように母親に声を掛けたけど、母親は虫の居所が悪いのか、ぷいっとそっぽを向くと、いたい、ママ。痛がる男の子には目もくれず。駐車場に停めてある黒いファミリーカーに向かってずるずると引っ張っていった。 「パパを置いていかないでくれ」 父親がスマホを見ながら、慌てて飛び出してきた。 あやうくぶつかりそうになったけど、青空さんが車椅子をバックさせてくれたお陰でぶつからずに済んだ。 「瀧田さん!」 永原先生が呼び止めたけど聞こえないのか、それとも聞こえているけど無視したのか、運転手席に乗り込んでしまった。

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